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「う……ん」

○○は眩しさから目を覚ました。

「○○さん!分かりますか?」

「クラウスくん」

「良かった」

クラウスはホッと胸を撫で下ろした。

「あ、私倒れたの?」

○○は起き上がり、辺りを見る。
知らない街の中にいた。どうやらティント市に着いた様だ。

「ええ、ハウザー殿がここまで運んでくださいました」

クラウスは色黒のハウザーを見た。

「え?!す、すみません!ご迷惑をかけて……」

○○は慌てて頭を下げた。

「いや、こちらこそ助かったんだ。礼を言う」

ハウザーは厳つい顔でにこりと笑った。

「そ、そんな。私は……。あ!U主くん達は?!」

○○は慌てて声を出す。

「まだ出てきていない」

ジェスが鉱山の一番上にある教会を仰ぎ見た。

「よ、良かった!!……そうだ、私が紋章使った事と、倒れた事は内緒にしてください!特にフリックとビクトールには!!」

○○は必死にお願いをする。

「何故だ?あんなに大活躍だったじゃないか?」

ハウザーは不思議そうに○○を見た。

「だ、大活躍だなんて……。とにかく何を言われるか分からないので……」

○○は青白い顔のまま頭を下げた。

「わかった。とりあえずは言わないでおこう」

ハウザーが頷いた。

「ありがとうございます!」

○○はホッとした様に笑った。

「あ!来ました!」

クラウスの声で振り返るとU主を先頭にナナミ、フリック、ビクトール、シエラ、カーン、コウユウそしてマルロが降りてきた。

「お帰りなさい!」

○○は笑顔で出迎える。
が、やはり紋章と貧血のせいで会話が入って来ない。

どうやら、U主はジェスとハウザー、ミューズ兵を仲間に引き入れる事に成功したようだ。


「確か傭兵の砦の○○だったな。ここに生きてこれたのはお前のお陰だ。礼を言う」

改めてジェスが○○の前にやって来た。

「そんな事ないよ。アナベルさんが認めた人ならきっとジェスくんも良い人だもん。頑張ってミューズも取り返そうね!」

○○はにこりと笑った。

「………………」

ジェスが眉間にシワを寄せ○○を見た。

「え?なにか?」

○○は何故睨まれるか解らずに戸惑う。

「“くん”とは何だ、“くん”とは?!」

ジェスは納得できないと声を出す。

「え?ジェスさま?」

○○は不思議そうに声を出す。

「違う!」

「えー……。基本的に私、年下にはくんなんだけど?」

○○は困った様に声を出す。

「ならばジェスだけで良い」

ジェスは眉間にシワを寄せたまま言う。

「そう?じゃあジェ」

「ダメ!!」

○○とジェスの間に割り込んだのはU主だ。

「U主くん?」

○○は不思議そうにU主を見る。

「僕だってまだ“くん”なのに後から来たジェスがいきなり呼び捨てなんてズルい!!」

U主は少し背の高いジェスをそう睨み付けた。

「はぁ?」

ジェスは呆れた様にU主を見る。

「○○さんが呼び捨てにするのは砦の時のビクトールさんとフリックさんとレオナさんとバーバラさんだけなんだからね!」

U主は興奮した様に言う。

「あ、テレーズも友達だから呼び捨てよ?」

○○はそう直す。

「お、おのれグリンヒル市長代行め……」

U主は見えないテレーズに悪態をつく。

「えー!でも私○○さんにちゃん付けされるの好きよ」

ナナミはにこりと笑った。

「まぁね、僕も君付け好きだけどね」

U主もにこりと笑った。

「でも、後から来たジェスに負けたくない!」

U主は負けず嫌いの様だ。

「……それを言うのなら俺は砦の頃から会った事があるぞ」

どうやらジェスも負けず嫌いの様だ。

「そ、そうだね。アナベルさんに会う前に会ってるよね」

○○はジェスに睨まれて頷いた。

「くっ!ズルい!」

U主は悔しそうに拳を握る。

「あ、そうだ。U主くん、ナナミちゃん、カップケーキ作ったの。食べる?」

「わーい!」

「嬉しい!!」

○○のカップケーキにU主とナナミは機嫌を直した。

「良かったらジェスくんも」

○○はにこりと笑った。

「……………………ありがとう」

ジェスはやはり君付けに納得しないままもカップケーキを受け取った。

「ほれ!お前らじゃれてないで行くぞ!」

ビクトールがU主達を呼ぶ。

「あ!ビクトールにも、はい!」

○○はビクトールにもカップケーキを渡す。

「お、ありがとな」

ビクトールは嬉しそうにカップケーキを受け取る。

「お疲れ様、ビクトール。これでちゃんとお墓参りしなきゃね」

○○はにこりと笑った。

「そうだな。お前も行くか?」

「え?良いの?」

ビクトールの言葉に○○は驚いた。

「あぁ。もちろんお前は大事な俺の仲間だからな」

ビクトールの穏やかな笑顔に○○は胸が熱くなる。

「うん!あ、お供え物作らなきゃね!」

○○は嬉しそうに涙を堪えて笑った。

「ありがとう、○○」

ビクトールはいつもの様に頭をぽんぽんと叩いた。


「では、我々は先に帰りますね」

クラウス、ジェス、ハウザーは軍を引き連れてアシタノ城へ帰って行った。

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