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○○が目を覚ました時にはすでにU主達はティントへ向かって出発するところであった。
「おんし、良く起きられたな。なんなら、もう少し血をくれんかのぅ?」
美少女吸血鬼シエラはニヤリと笑うと牙がキラリと光った。
「え、遠慮します」
○○は冷や汗を滴ながらそう声を出した。
「そうかえ?それは残念。なら、わらわはそろそろ行くぞ」
シエラは階段へと行く。
迷いながらも○○は一緒に下った。
「シエラ殿、おはようございます。それと○○さんですね。以前お会いしましたね?」
黒服の男がシエラへ挨拶をした。そして○○にも声をかける。
「はい!確かカーンさんですよね?おはようございます」
○○は黒服の男ーーカーンに挨拶をした。
「お、○○起きて平気なのか?」
フリックが○○に声をかける。
「ギリギリ……。ちょっと貧血気味だけどね」
○○は青白い顔で苦笑した。
「あんまり無理するなよ」
ビクトールはそう言うと○○の頭をぽんぽんと叩く。
「っ!!うん!!」
○○は怒っていないビクトールに嬉しそうに笑った。
「シエラさん、○○さん。おはようございます」
クラウスがにっこりと笑いながら姿を現した。
「おはようございます!クラウスさん!」
先程までの傲慢な態度から一転し、シエラは明るく可愛らしい少女の様に笑った。
「…………!!」
○○は驚きながらシエラを見る。
他の者達は呆れたり、やはり驚いたりしている。
「クラウスさん、私喉が乾いてしまいましたわ。何か頂けるかしら?」
シエラはにっこりと笑った。
「あ、はい、わかりました。お待ちください」
クラウスはにっこりと微笑むと、奥へと下がる。
「ふぅ、ならば、行くか!」
シエラは元通りに戻ると上から目線で言った。
「………………あ!気を付けてね!私は大人しくクラウスくん達と待ってるから」
○○はU主達にそう笑った。
「はーい!行ってきます!」
U主とナナミは元気よく答えた。
「おう、行って来るぜ」
ビクトールはにかりと笑った。
「お前は無理せず待ってろよ」
フリックが釘を指す。
「それでは、失礼します」
カーンが礼儀正しく頭を下げると、出ていった。
「あれ?お水……」
機嫌良く水を持ってきたクラウスは小さく呟いた。
「あはは……」
○○はそれを見て苦笑した。
「何をしてるんですか?」
クラウスが不思議そうに○○を見る。
「疲れてると甘い物が食べたくなるじゃない?だからお菓子を作ってるの!簡単な物しか出来ないけど」
借りている台所から漂ってくるのは甘い香り。
「私はコックだから、これくらいしか出来ないのよね」
○○は苦笑しながら焼けたカップケーキをデコレーションする。
「喜ぶと思いますよ」
クラウスはにっこりと微笑む。
「あ、味見お願い出来るかしら?」
○○はカップケーキを半分に割り、片方をクラウスに渡す。
「え?良いんですか?」
クラウスはカップケーキを受け取る。
「もちろん!クラウスくんも頑張ってるじゃない!それに……昨日のお詫び……かな?」
○○は照れながらそう言った。
「っ!!だ、だから、見てません!!!」
クラウスは顔を真っ赤にして反論する。
「分かってるよ。巻き込んでごめんねって事」
○○はクスクスと笑った。
「うん!美味しく出来た!」
○○はカップケーキを口に入れて満足そうに声を出した。
「……甘くて美味しいです」
クラウスは赤みが残る顔で呟いた。
「良かった!」
○○は嬉しそうに笑うとカップケーキを袋に小分けにし、さらにそれを大きな袋に入れて、茶色いリュックサックに入れた。
「大変だ!!ミューズのジェス殿が引き連れた軍が敵の罠に掛かった!すぐそこまで逃げて来ているのだが、ゾンビの大群に襲われているんだ!!!」
伝令の兵士がそう叫びながら入って来た。
「っ!ジェス殿とハウザー殿、そしてミューズの兵達は戦力になります!」
クラウスは冷静に慌てる。
「行ってみましょう!」
○○はクラウスに言い、クロムの村を出た。
どうやら場所はクロムよりも北のティント方面の様だ。
「いた!あそこ!」
○○はティント市間近の場所で戦闘を繰り返す。
「ジェス殿も無事のようですね」
クラウスは冷静に分析をする。
「どうする?少しでも敵を減らせば良いなら使うよ?」
○○は左手の破魔の紋章をクラウスに見せる。
「……お願いします!我が軍にとって必要とします」
クラウスは一瞬迷ったが、そう○○に言う。
「分かったわ!【小言】!!」
○○が呪文を唱え、紋章を発動させる。
一番近くにいたゾンビが倒れる。
「え、援軍だ!」
「紋章だ!」
ミューズ軍から歓声が沸く。
「効くね。よし!【破魔】!!」
○○は続けて強い呪文を唱える。
「ギャー!!!!」
「ぐわぁぁぁ!!!」
「ぎゃぁぁぁ!!!」
ゾンビ達の悲鳴がそこかしこから響く。
「これは……」
凄まじい威力にクラウスは言葉を無くす。
「く、クラウスくん!!」
○○は慌ててクラウスを呼ぶ。
「破魔の紋章ってこんなに威力が凄いの?!使ってる私が怖いんだけど?!」
攻撃系魔法は今まで二度しか使った事が無い○○は戸惑いを隠せずにいた。
一度目はクルガンに、二度目は札でシードやクルガンに。
雑魚とは言え、大人数に使うのは初めてだったのだ。
「彼らは元人間でも今はゾンビです!苦しんでる人達を解放するにはこれしかありません!」
クラウスは強く言う。
(紋章は使う人の魔力により威力が違うとは聞くが、ここまでとは……)
クラウスはごくりと喉を鳴らした。
「分かった!でも私だけじゃダメだから、ミューズ兵達にも指示を出して!【破魔】!!!」
○○は納得した様に呪文を唱える。
たった二回の魔法で半分のゾンビ達が息絶える。
「ジェス殿!!こちらも援護します!兵達にも指示を!!ティントに向かいながら戦って下さい!」
クラウスはジェスに叫んだ。
「くっ!すまない!しかし、怪我人も多いんだ!!」
ジェスは指示を与えるが、厳しそうに声を出した。
「っ!!【かつ】!!!」
○○はジェスの声を聞くと破魔の紋章レベル4魔法を唱えた。
「うおっ!!傷口が!!」
「足が痛くない!!」
「た、助かるぞ!!」
体の傷が癒えていく兵士達はまた士気を高めた。
「は【破魔】!!!」
○○はもう一度呪文を唱える。
「○○さん!」
崩れ落ちる○○をとっさに支えるクラウス。
「ごめ、クラウス、くん。もー、無理……みたい」
○○は辛そうに真っ青な顔で言う。
「大丈夫です!これくらいなら残った兵で!!」
クラウスの言葉通り、ゾンビ達は殲滅した。
「クラウス殿助かった」
ジェスがクラウスに駆け寄る。
「こいつは確かビクトールの所の」
ジェスが○○の顔を覗き込む。
「紋章の使い過ぎです」
クラウスは困った様に言う。
「そうか、我々を助けるため……。ハウザー!頼めるか?」
ジェスがハウザーを振り返る。
「承知」
ハウザーは軽々と○○を横抱きにして立ち上がる。
「……ん。あ、月の紋章が……」
○○は目を閉じたままうわ言の様に呟く。
「……寝ている」
ハウザーが声を出す。
「なら、ティント市へ急ぎましょう」
「そうだな」
クラウスの号令で残った兵を連れ、皆でティント市へ入っていく。
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