君のいる部屋8


「ここか?」

シャンクスはシラパに連れられてネオン瞬く繁華街にやって来た。

「えぇ。お洒落で値段もリーズナブルで若者に人気のお店なのよ」

シラパがにこりと笑った。

「……治安は良いのか?」

シャンクスは頭を抱える。

「悪いわよ。繁華街ですもの」

シラパがやれやれと手をあげる。

「チッ」

シャンクスは舌打ちをした。

「まぁ、行きましょう」

シラパはシャンクスの腕に自分の腕を絡ませる。

「なんだよ」

「こうすれば私達も恋人同士に見えるかしら?」

うふふとシラパは妖艶に微笑んだ。

「そいつはごめんだ」

「つれなーい!」

シラパはクスクスと楽しそうに笑った。







君のいる部屋8









2人は居酒屋に入って行った。

「こちらへどうぞ!」

2人は半個室へと案内される。

「ね?雰囲気良いでしょ?」

シラパが嬉しそうにメニューを見る。

「……」

シャンクスは隙間から見える店内をキョロキョロと見た。

「全く。お頭ったら!」

シラパはやれやれとため息をついた。

「適当に頼むわよ」

シラパはピンポーンと呼び鈴を鳴らした。



「失礼します」

個室のドアが開けられる。そこには見間違える事のない○○の姿。
シャンクスは静かに自分を落ち着かせる様に○○から目線を外した。

「注文お願いします!」

シラパはにこりと微笑んだ。

「はい!どうぞ」

○○の愛しい声がシャンクスの脳を揺らした。

「えーっと、生2つと、今日のお勧めプ レート!」

「はい!かしこまりました」

○○はピッピッと手に収まる機械を操る。

「他にご注文はありますか?」

○○がパッと頭をあげ、シャンクスを見て驚いた。

「なんかある?」

シラパはシャンクスを振り返る。

「……いや」

シャンクスは静かに首を振った。

「大丈夫でーす!」

「かしこまりました。お待ちください」

○○は部屋を後にした。

「ね?○○ちゃんでしょ?」

「……あァ」

シャンクスは大きく息を吐いた。

「まったく、お頭は○○ちゃん馬鹿なんだから!」

シラパは呆れ顔でシャンクスを見た。

「当たり前だ!半年振りなんだぞ!ここで押し倒さなかっただけ良しとしろ!」

「それやったら最低男よ!」

シャンクスの勢いにシラパは呆れ顔は少し怒った。

「……シラパ、悪いが」

「分かってる!注文したの食べて飲んだら私は先に帰るわ」

シラパはにこりと美しく笑った。

「……悪いな」

「良いのよ。その為に来たんだから」

「ベックの差し金か?」

シャンクスはズバリと聞いた。

「あら、気付いてたの?」

シラパは平然と声を出す。
シラパにとっても、ベックマンにとっても想定の範囲内である。

「こんなに近くにいて、あいつが○○の居場所を知らない方がおかしいだろ!」

シャンクスは不機嫌そうに言う。

「ふふ、怒らない、怒らない!」

シラパはにっこりと微笑んだ。









シラパが帰った後、再び注文を取りに来た○○に仕事終わりに会う約束を取り付けた。


誰にも邪魔されたく無かったので、夜中だったがシャンクスは公園を選んだ。
何があっても○○を守れる自信があったからだ。


離婚届を見せると○○はまだ持っていたのかと怒った。




「ふん、探してないから見つからないんでしょ」

「ずいぶん探した」とのシャンクスの言葉に○○が苛立たし気に言う。



「それしかお前の行きそうな所なんて知らない」

「知ろうとしなかったもんね」

○○は吐き捨てる様に言う。

「知らないでしょ?私がここに住んでた事も、髪の毛が短い方が好きな事も、ワンピースよりジーパンが好きな事も!」

全てを吐き出すように○○が言う。
そこまでシャンクスは○○を追い詰めていたのだと、改めて思い知らされた。




「じゃあなに?こんな所彼女に見られたら誤解しちゃうよ?ってか、そもそもさっきの彼女も奥さんと違う人だし」

○○は捲し立てる。

「奥さんはお前だろ」

「っ!!違うでしょ!!」

○○は立ち上がりシャンクスのシャツの襟元を両手で掴み上げる。

「しっかりしろ!あんたそれでも人の親になるの?!子供が出来たのにあっちフラフラこっちフラフラして!!!これ以上不幸な人増やして何が楽しいの!何が満足なの?!」

「何を言ってる?」

「何?ここまで来て、しらを切るの?あんたの彼女さんから、母子手帳見せられて!その子に父親が必要って言われて!!!浮気を許しても!!子供が出来たら浮気じゃないでしょ?!」

○○は耐えきれずにぼたぼたと涙を流す。その涙がシャンクスの顔に当たった。

「わ、私には上手い事言って、子供作ら ない様にしてた、くせに!!!要らない なら……、要らないなら要らないって面と向かって言えば良いじゃな い!!!!!」

○○は涙も止めず、シャンクスを睨み続ける。

「馬鹿、みたいじゃない、私。一人であの家であんたの帰り待って……。ひっく、どうせ、帰って、来ない、のに!!」

○○はシャンクスから手を離し、よろよろと後ろへ下がる。

「ごめん。私、こんなに醜いの。ずっと貴方に捨てられるのが怖くて。でも、私は貴方の命の恩人だから無下にも出来ないの知ってたよ」

○○は涙を拭う様に手の甲で乱暴に目を擦る。




捨てるはずない。

棄てられるはずがない。

これだけ○○に執着しているシャンクスだ。

(あの噂を流した奴だ。まさか、こんな事をしていたのか)



「愛してるよ。お前だけだ ○○。離れないでくれ。俺にはお前だけなんだよ」

シャンクスの声は弱々しい。

「っ!!そ、そんな事今まで言ってもくれなかった!!」

○○はシャンクスを抱き返す。

抱き返された事により、心の底から温かいものが溢れ出る気がした。

「あァ、悪かった。好きだよ、○○」

シャンクスはぎゅっと抱く力を強くする。

「わ、私も好き……」

○○は自分の顔をシャンクスに押し付けた。

「じゃあ、帰ろう。さすがに寒いだろ?」

シャンクスが着ていたコートを脱いで○○の肩にかける。

「うん。…………ん?どこに?」

○○は戸惑いの表情でシャンクスを見上げた。

「どこって、そりゃ、マンションだろ。俺達の」

シャンクスは当たり前だと強い口調だ。

「嫌!職場遠くなるもん」

○○はプイッとそっぽを向く。
どうやら、我慢を止めたらしい。

(可愛い……)

○○の小さな反抗にシャンクスはまず、そう思った。

しかし、

「あ?仕事なんて止めろって!」

シャンクスはムッとした表情だ。

「辞められないよ。今、人少なくて大変なんだよ?」

○○はシャンクスを見上げる。

「何言ってるんだよ」

「シフトは3ヶ月先まで入ってるし」

「は?バイトなら普通1ヶ月ずつだろ?」

「9カ月契約したの!お給料その方が高いんだ!」

○○は嬉しそうににこりと笑った。

「だから、金なら……」

「私はずっと我慢してた」

「…………」

ぽつりと寂しそうに呟いた○○にとうとうシャンクスは黙り込んだ。



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