君のいる部屋7
「っは、……気は、済んだか?」
殴られてボロボロの顔でベックマンが口を開いた。
「っ…………はぁ、はぁ。悪ィ」
同じく殴られてボロボロの顔でシャンクスは頷いた。
君のいる部屋7
「いきなり手が出るのはあんたらしくないな」
ベックマンは顎から頬を撫でた。
血の付いた指を見て乱暴に血を拭った。
「悪ィ。でも、お陰で少しスッキリした」
シャンクスは苦笑いをした。
「そうか。それで?事を整理するが、帰ったら○○がいなかったんだな」
ベックマンが煙草に火を付けながら聞いた。
傷口にしみたのか、チッと舌打ちをする。
「あァ。○○の荷物も何にもねェ。あるのは離婚届とブローチと結婚指輪だけだ」
立ち上がるとテーブルの上を見た。
「いつだ」
「わからねェ。最後に電話を入れたのが3週間前だ。それから何回か固定電話にかけたが繋がらなかった」
シャンクスは家にある固定電話を指差す。
「その間に特に脅迫状もないからな。これだけ綺麗に片付けたんだ。自分から出て行ったんだろうよ」
ベックマンは紫煙を吐き出した。
「何でだよ!」
「あんたに愛想を尽かしたんだろ」
「っ!!!」
そうは思っていても、他人のしかも信頼するベックマンの口から言われた言葉に衝撃を受けた。
「まァ、会ってないなら何か切っ掛けでもあったんだろうが」
「とにかく、俺はどうすれば?!」
シャンクスは落ち着かない頭を押さえた。
「仕事でもしろ」
「は?」
「○○が最後に言った言葉なんだろ?なら、仕事を頑張るしかねェな」
ベックマンはニヤリと笑った。
「…………ぐ」
シャンクスは項垂れた。
「とにかく、目立って探す訳にも行かねェ。赤髪の妻ってんで、馬鹿な事考える輩もいるかも知れねェからな」
「あァ」
シャンクスは真剣な顔付きで頷いた。
「この事はあまり人に言うな」
「わかった」
シャンクスは大きく深呼吸をした。
「俺から逃げられると思うなよ、○○」
それからシャンクスは休みを使って色々と○○を探した。
○○の実家や、独身時代を過ごしたアパート。
しかし、彼女を見付ける事は出来なかった。
会社では、ベックマンの他にヤソップやルゥなど限られた幹部しか知らないはずが、『社長と奥さんが別れたらしい』と言う噂が囁かれていた。
ベックマンがすぐに噂元を探しあて、睨みを効かせたら鎮静化した。
熱血なシャンクスファンだったようだが、彼女も妊婦だったようで、丁度おめでた退社して行った。
時々シャンクスファンの女性から『奥さんの居場所を知ってるわ』と誘いを受ける事があった。
シャンクスはそれに乗るが、その全てが空振りであった。
もちろん、夜のお誘いは丁重にお断りをした。
「はぁ……○○……」
シャンクスは大きくため息をついた。
アルバムから抜いた写真を社長室のデスクの上に置いていた。
その○○が笑顔で写る写真を見てはため息をついていたのだ。
「どこにいるんだよー。会社の株がこんなに上がってるのに、お前がいなきゃ意味ないだろー」
シャンクスは大きくため息をついた。
すでに、○○がいなくなって半年の月日が流れていた。
シャンクスの精神も限界が近づいていた。
「しゃ・ちょ・お!来ちゃった!」
そんな中、やって来たのは美女シラパだった。
「お?お前どうしたんだ!」
シャンクスは久し振りに見る部下に嬉しそうに笑った。
「ふふ、お頭に会いたくなっちゃって」
「あはは、そうか!」
シラパの言葉にシャンクスは可笑しそうに笑った。
「ねぇ、お頭。昨日○○ちゃん見たわよ」
シラパがにっこりと笑った。
「……は?」
シャンクスは思いきり間抜けな顔をした。
まさかの情報だ。
「ここから2駅先の居酒屋で」
シラパは指を指した。
「居酒屋ァ?!」
シャンクスは鸚鵡返しに声を出す。
「えぇ。あら?知らないの?」
「…………」
シャンクスは押し黙る。
「やっぱり!お頭があの子をあんな時間に働かせるなんておかしいと思ったのよ!しかもお酒を出す店で」
シラパは合点が行ったように手を叩いた。
「どこなんだ」
シャンクスは地を這う様な声を出す。
「ふふ、今日行く?」
シラパが妖艶に微笑んだ。
「…………あァ」
シャンクスは頷いた。