君のいる部屋6
「知らばっくれんなよ。そのテーブルの上」
シャンクスの視線をたどってベックマンはテーブルの上を見る。
「離婚届……か」
ベックマンは緑色で書かれた薄い紙を持ち上げた。
そこには丁寧な字で○○の名が書かれていた。
「それだけじゃねェ。そのブローチは初めてプレゼントしたやつだ。それに結婚指輪も……」
シャンクスはゆっくりと立ち上がる。
「なァ、○○をどこにやったんだ?」
シャンクスは立ち上がると拳を握ってベックマンに詰め寄った。
君のいる部屋6
結婚生活は仕事の忙しさもあり、なかなか充実とまでは行かなかったが、納得のいけるものだった。
何とか休みが取れた日などは2人で色々な所へと出掛けた。
「寒くないか?」
この時期の海には人がいない。
「うん!大丈夫」
○○は嬉しそうに笑った。
その笑顔にシャンクスは癒されるのを感じた。
「海って、夏以外に来ても気持ちが良いんだね」
○○は海に向かってうーんと伸びをした。
「だろ?海は良い!雄大で誰も拒まねェ。それに旨い魚介類も採れる」
シャンクスはにかりと笑った。
「シャンクスは海が好きなのね」
「あァ!大好きだ!」
「……」
シャンクスの嬉しそうな顔に○○は海を羨ましく感じていた。
「もう少し行った所に遊覧船が出てる。行くか?」
「うん!行きたい!」
シャンクスの言葉に○○は嬉しそうに笑った。
「ねぇ」
「ん?」
「手、繋いでも良い?」
○○が左手を差し出す。
「…………あァ」
緩みそうになる頬にぐっと力を入れて○○の手を右手で取った。
○○は嬉しそうに笑い、歩き出した。
隣で眠ってしまった○○をシャンクスが静かに撫でた。
「……ガキ……か」
○○がシャンクスとの子供が欲しいと言い出したのだ。
「○○と俺との……」
ニヤリと思わず緩む口許。
「良いよな。何か自分の家族持つのか。この、俺がな」
シャンクスは声を出して笑った。
「早いとこ仕事片付けなきゃな。そしたら健診にも行けるしな。ヤソップ大変そうだったもんなァ」
シャンクスは○○の額に口付けると、布団に潜り込んだ。
「…………やべェ。興奮して眠れなくなっちまった」
シャンクスは思いきり眉間にシワを寄せた。
それから、ますます仕事が忙しくなり、休みは愚か、家に帰れる日も減ってしまった。
「っくそ!何なんだ!」
シャンクスは悪態をつきながらも懸命に働いた。
「これじゃあ、本当にガキなんか作ってる暇もねェじゃねェか!!」
シャンクスは叫びながらも手を止める事はしなかった。
「お!お頭!真面目にやってるな!」
まとめた資料を持ってヤソップが社長室にやって来た。
「なんか用か?」
シャンクスがヤソップに視線を合わせる。
「ほら!言ってた資料だ」
ヤソップがポンッとテーブルに資料の束を放った。
「おォ!さすがヤソップ!!仕事が早ェな!」
シャンクスは嬉しそうに資料に手を伸ばした。
「で?お頭、ガキが欲しいのか?」
ヤソップが社長室にある珈琲に手を伸ばした。
「俺にもくれ。あァ、やっぱり良いよな」
「ほいよ」
ヤソップがコップに2つ珈琲を淹れてデスクに近付いた。
「さんきゅ」
「妊婦は大変だぞー」
ヤソップがコップに口を付けながら言う。
「味覚は変わるは、臭いに敏感になるは、性欲も減るわ」
ヤソップが指折り数える。
「そうなのか?」
シャンクスが驚いて顔を上げる。
「あァ。俺なんかさ『ごめんなさい、貴方の臭いが一番無理』とか言われてさー」
ヤソップが思い出してはがっくりと項垂れた。
「それは……」
お気の毒にとシャンクスは憐れみの目でヤソップを見た。
「それにさ、産んでも母乳だと濡れないぜ」
「は?」
ヤソップの言葉にシャンクスは目を丸くする。
「まァ人にもよるが、臨月から乳離れまでは出来ないと思えよ!」
じゃあな!とヤソップは飲み終わった珈琲を片付けて出て行った。
「…………いや、それでも!!」
シャンクスは己と戦っていた。
そして、家に帰れない日が続いたある日。
その日も帰る事が出来ずに○○に電話を入れたのた。
「仕事、頑張ってね、か。うっし!!頑張るぞ!!」
この時、疲れていたシャンクスは妻の異変には気付けずにいた。