君のいる部屋5
ドアノブを捻ると軽く回った。
「…………荒れてるな」
勝手に部屋に入り、リビングへと行くとベックマンはそう呟いた。
「これはどう言う事だ?」
部屋の中は荒れ放題だった。
本は散乱し、カーテンはボロボロに破かれ、服は散乱する。
キッチンにいたっては食器が割られていた。
そんな中にシャンクスが昨日と同じ格好のまま座り込んでいた。
手には壊された携帯電話。
「…………いないんだよ」
シャンクスはぽつりと漏らす。
「○○がいないんだよ。電話も解約されてる」
意外としっかりした声が響いた。
「なァ、○○をどこにやったんだよ?」
シャンクスの目は鋭い殺気を混ぜていた。
君のいる部屋5
「今日こそは○○とデートだ!」
シャンクスはルンルンと服装を正した。
「良かったな!お頭!今日のプランは?」
ヤソップがニヤニヤと聞く。
「映画行って食事だ」
シャンクスはニヤリと笑った。
時間ギリギリまで仕事をしたが、何とか終わったのだ。
「王道コースだな!」
ルゥもニヤニヤと笑った。
「まァな!じゃあ!お疲れさん!!」
シャンクスは鞄を持つと出口へと向かう。
「お頭」
「…………聞こえねェ」
ベックマンの声にシャンクスは耳を掌で押さえた。
「今、お得意先のお嬢さんから連絡があった」
「…………聞こえねェ」
「今、あのお嬢さんからのお誘いを断るのは得策とは言えないな」
ベックマンが煙草を吹かす。
ヤソップとルゥは哀れみの目でシャンクスを見た。
「俺は○○と……」
泣きべそをかきながらシャンクスはベックマンを見る。
「この会社を潰したきゃ別に良いが、あんたも俺も□□も路頭に迷うだけだ」
ベックマンは「ほら」と手を出す。
「……」
シャンクスは嫌そうに携帯電話をベックマンに渡す。
「……」
ベックマンは無言でシャンクスの携帯電話の○○のロックを外した。
シャンクスはベックマンにロックを外して貰わないと○○との連絡方法もないのだ。彼女からの連絡を待つしかない。
「ごめん。急用が出来て行けなくなった」
シャンクスは電話の向こうの○○と二三言葉を交わすと携帯電話を切った。
「良く出来た」
ベックマンは再び携帯電話にロックをかけた。
「っくそー!!!○○!!待ってろ!!」
シャンクスは叫ぶとそのお嬢さんの元へと向かった。
「それでね!お父様ったら!」
「あはは、面白いですね」
シャンクスはお嬢さんの話を右から左に聞き流していた。
(つまらん。あーあ、本当なら今頃○○と一緒に映画見て、旨い飯食って……)
シャンクスはバレない様にため息をつく。
「聞いてます?シャンクスさん?」
お嬢さんはシャンクスの腕に自分の腕を絡ませた。
「聞いてますよ」
シャンクスは営業用の笑顔を向けた。
この笑顔で今までたくさんの女達を虜にしてきたのだ。
夜の誘いを上手く切り抜け、シャンクスは自宅のベッドへと倒れ込んだ。
(こう、仕事が忙しくちゃ恋愛もままならないな)
シャンクスは大きくため息をついた。
(声が聞きたい。声だけでも)
しかし、携帯電話は9桁のロックがかかっている。
しかも頭の良いベックマンの事だ。ひたと筋縄では行かない番号だろう。
「くそっ!!」
シャンクスはチマチマとロック解除に向けて携帯を操り始めた。
「ベック!!俺は限界だ!!」
あれから1ヶ月、ロックは解除出来ない(週に一度ベックマンがロックナンバーを変えるから)、そして何故か○○からの連絡さえ途絶えたからだ。
シャンクスは携帯電話をベックマンにずいっと突き付けた。
「1ヶ月連絡が無いくらいでじたばたするな」
ベックマンは忙しいと紫煙を吐き出す。
「お前は女関係に淡白過ぎんだよ!」
シャンクスはバンッとデスクを叩いた。
「俺ほど愛に溢れた男はそうはいねェな」
「嘘つけ!!」
「ほら」
「何だよ?」
ベックマンのパソコン画面を覗き込む。
「あァ、前に企画した立食パーティーな?」
シャンクスが画面の企画書を目で追う。
「ここ」
「あ!」
参加表明の所に□□○○の文字。
「後1ヶ月我慢しろ。あんたは我慢を覚えろ。メールや電話で謝るより効率的だろ?」
ベックマンがシャンクスを丸見込めに入った。
「でもな!それで○○に愛想つかされたら!」
「それまでの関係だろ」
ベックマンがさらりと言う。
「…………っく」
シャンクスは何に納得したのか、仕事へと戻って行った。
そしてまた1ヶ月が過ぎ、立食パーティーの日。
控え室に彼女を連れ込むと、やっと○○と二人きりになった。
「で?」
シャンクスは声を出す。
「……あの、最後に断られた日。見たの。綺麗な女の人と幸せそうに笑う貴方を」
○○は声を絞り出す様に言う。
「……そうか」
シャンクスはあのお嬢さんの顔を思い出してチッと舌打ちをして頭をガシガシとかいた。
「……それに」
「ん?」
「別に自分から連絡しても良いんじゃない?」
○○は小さく言う。
「……」
まさか、ベックマンに携帯電話をロックされていたなどとカッコ悪くて口に出せなかった。
「わ、私。もう、シャンクスとは付き合えないよ」
○○は震える声を出す。泣くのを必死で我慢しているのだ。
「……」
シャンクスの頭はショックで真っ白になる。
「い、今まではありがとう。楽しかった」
「……」
「っ!!」
シャンクスは○○が背を向けると静かに後ろから○○を抱き締める。
「許してくれ」
「……」
「なァ、お前を手放したくねェよ」
シャンクスは必死さを隠しながら声を出す。
「…………なら」
「ん?」
「結婚……して?」
「……」
○○の言葉にシャンクスが驚いた。
(結婚?!って事は俺の事を嫌いになった訳じゃねェんだな?!)
そしてにやける顔を引き締めて、お決まりの難しい顔をする。
「……」
「……分かった。しよう」
シャンクスは真剣に頷いた。
「ほ、本当?」
○○は驚いてシャンクスを見上げる。
「あァ、男に二言はねェ」
シャンクスはにかりと笑った。
「うん!」
○○は嬉しそうに頷いた。
こうして、2人は1年後結婚式をあげた。
会社はシャンクスの意向で寿退社をした。
幸せを感じながら2人は結婚をした。
質素に式を挙げたい○○に反して、シャンクスの要望でお色直しは2回行われた。
それに加え、前撮りでは恐ろしい数のウエディングドレスの量に撮り終わった後の○○は少しぐったりとしていた。
それでもやはり○○も女なのでお姫様の様な格好を愛するシャンクスに褒められて嬉しそうに微笑んでいた。