君のいる部屋3
シャンクスは部屋に足を進めた。
「おい!何の冗談だ!!」
シャンクスは声を荒げて○○の部屋へと入る。
「…………っ!!!」
そこには何もなく、空っぽの部屋だった。
ごみ袋の中にはアルバムや写真が無造作に入れられていた。
「○○!!!」
シャンクスは叫ぶように名前を呼びながらリビングへと行く。
ーー帰ってきたらテーブルの上見てね
「っなんなんだよ!!!」
テーブルの上にあるそれを見付けた。
君のいる部屋3
○○が入社してからシャンクスは意味もなく○○の所属する部所やフロアに足を運んだ。
笑顔で挨拶をくれる○○がシャンクスにとっては数少ない癒しになっていた。
「あー、さすがは俺の命の恩人!」
シャンクスはニヤニヤと陰から○○を見る。
「オッサンのストーカーキモイわァ……」
ヤソップが嫌そうに言う。
「おい、お頭。相手は俺らよりずいぶんと年下なんだぞ?解ってるのか?」
ルゥがニヤニヤと笑った。
「解ってるよ!これはあれだ。恋愛ではなく庇護だ!庇護愛!」
シャンクスが胸を張って言う。
「庇護ねェ……」
ヤソップが胡散臭そうにシャンクスを見る。
「でもさ、○○ちゃんの方から『付き合って!』って言われたらどうすんだよ?」
ヤソップが気になった様子で聞く。
「俺には女がもういるんだぜ?」
シャンクスが言葉とは裏腹にだらしない顔で言う。
「お頭、その顔は嫌われる」
ルゥが肉にかぶりついた。
「え?!」
シャンクスがショックそうに声を出し、自分の顔をペタペタと触った。
「だなァ。今のだらしない顔はヤバイな……。なァ!!」
ヤソップがベックマンを振り返る。
「そうだな」
ベックマンまでもが頷いた。
「…………そうか」
シャンクスがグッと顔の筋肉を動かした。
「……難しい顔だな」
ヤソップがシャンクスの顔を見る。
「まァ……さっきよりは……ましか?」
ルゥもシャンクスの顔を見る。
「おい、バカやってないでそろそろ仕事に戻れ」
ベックマンが紫煙を吐き出した。
「「「おー!」」」
3人はそれぞれ仕事に戻った。
そして、○○が入社してから2年のバレンタインデー。
「ずっと、ずっと、好きでした!わ、私 あの時から」
○○は顔を赤くしながら真剣に言葉を紡ぐ。
あまりの出来事にシャンクスは動きを止めてしまう。
「○○、俺」
「こ、答えないでください」
シャンクスが自分の気持ちを言う前に○○は小さく笑った。
「答えは分かってます。社長には付き合ってる人がいるのも知ってます。だから、受け取ってくださるだけで結構です。でも……」
「……」
「心に整理がつくまでは、好きでいさせてください」
「…………あァ」
○○の今にも泣きそうな笑顔にシャンクスは真剣な顔で頷くと、箱を受け取った。
「ありがとう、ございます」
○○はにっこりと笑うとその場を走り去った。
シャンクスはにやけそうになる顔をとっさに押さえた。
「俺……喜んでる?」
シャンクスは少し戸惑い気味に壁に背を預けた。
「でもな、俺にはあいつがいるしな」
シャンクスは彼女の顔を思い浮かべた。
3月に入ったある日。
出先のデパートに寄った時。
「そっか、世の中はホワイトデーだな」
シャンクスは自分の彼女へのお返しにとアクセサリー店へと入った。
「ゴディバのチョコは旨かったしな。酒に合ったなァ」
そんな事を考えながらごてごてと宝石の付いた美しいネックレスを見た。
「これ、包んでくれるか?」
シャンクスは値段も見ずに店員へ声をかける。
「かしこまりました」
店員はにこりと機嫌良く笑った。
「…………あ」
シャンクスの目に止まったのは派手過ぎず、地味過ぎず、フォーマルにもカジアルにも合いそうなブローチ。
「○○に似合いそうだな」
シャンクスは○○の顔を思い出しながらへらりと笑った。
「こいつも包んでくれ」
シャンクスは店員へブローチを指差した。
「かしこまりました」
店員は手際よく2つの箱に入ったネックレスとブローチをそれぞれ包んだ。
「ずいぶんと趣の違うプレゼントですね」
にこりと微笑む店員。
「あァ、彼女と命の恩人へだ」
シャンクスは気分を害する事なくカードを出す。
「では、ブローチが大切な方へですね」
店員はカードを丁寧に預かる。
「何でそう思うんだ?」
シャンクスは不思議に思いながら訊ねる。
「お客様の顔を見ていれば解ります。とても楽しそうに選んでましたから」
店員はカードを受け取るとレジへ下がる。
「…………そうかねェ」
シャンクスは自分の顔をペタペタと触った。
そして、ホワイトデー。
エレベータで偶然を装い、シャンクスは○○にブローチを渡した。
「…………こんなの 貰ったら、期待しちゃうじゃないですか……」
○○は困った様な顔をする。
「そ、それとも、まだ脈有りなんですか?!」
○○は少し怒った様にシャンクスを見上げる。
「……わかんねェけど、○○にチョコ 貰って嬉しかった。お前の事考えて楽しかった。考えながらそれ買ったのも楽しかった」
シャンクスはポツポツと自分の気持ちを素直に言い始める。
「……それって……」
○○は驚いてシャンクスを見上げる。
「だから、受け取ってくれ」
シャンクスは頭をガシガシとかいた。
「……諦めなくて良いんです?」
「…………あァ」
「わ、私。頑張って社長を落としますよ!!!」
「だっはっは!楽しみにしてるよ」
シャンクスは嬉しそうに笑いながらぽんぽんと○○の頭を叩いた。
自分の気持ちに気付き始めたシャンクスは素直に笑っていた。