君のいる部屋1
「はぁ……」
シャンクスは大きくため息をつくと車のエンジンをかけた。
やっとだ。
やっとこれで自由に仕事が出来る。
シャンクスは人知れずニヤリと笑った。
会社を起こして10年。
ようやくこの地位を手に入れた。
この世知辛い世の中。
自由に自分の好きに仕事をしたくば、地位と力を確立しなければならない。
今までどれ程の人間を利用し、踏み台にして来たか。
それも今日で終わりだ。
「あー、早く帰りてェな」
シャンクスは家で自分の帰りを待つ愛しの妻、○○の顔を思い浮かべる。
「抱きてェなァ。……止まんなくなりそうだな」
シャンクスは○○の攻略方を考えながらマンションへ向かった。
君のいる部屋1
「自分の思い通りにしたくば、地位と力を手に入れる事だな」
レイリーのグラスが空になり、氷が音を立てた。
「地位と力……ねェ」
シャンクスは興味もなく呟く。
「シャンクスちゃんはその顔で女の子達を利用してるんでしょ?」
シャッキーがにこりと笑う。
「あー……人聞きの悪ィ」
シャンクスは苦笑する。
「良いじゃない。昔のレイさんみたい」
クスクス笑いながらシャッキーはレイリーに新しい酒を出す。
「あァ、確かにそうでしたよね」
シャンクスはニヤリとレイリーを見る。
「ふふ、間違えた。今も、だったかしら?」
シャッキーは高らかに笑った。
「まァ、否定はせんな」
レイリーは新しい酒に口をつける。
「ところで、シャンクスちゃん」
「はい?」
「マダムシャーリーから伝言。そろそろ運命の出逢いをするって」
煙草に火をつけながらシャッキーは思い出した様に言う。
「あの、占い師さんねェ」
シャンクスは酒をあおる。
「シャーリーの占いは当たるのよ?」
シャッキーはクスクスとシャンクスにも新しい酒を出す。
「運命って言われても、良い仲間も良い女も俺にはいるぜ?」
シャンクスは苦笑する。
「なら、違う運命なんじゃない?シャンクスちゃんの彼女っていつもシャンクスちゃんの顔や体、財力ばかり狙ってるじゃない」
シャッキーは紫煙を吐き出す。
「それが普通でだろ?」
シャンクスは不思議そうにシャッキーを見る。
「ふふ、そんな事ないわよ。確かに顔も体も財力も必要よ?でもね、そうじゃない。貴方自身を欲する女も必ずいるわ」
「俺自身を?」
「そう。言わば本能ね。貴方が地獄に落ちるなら、一緒に落ちてくれる女性が必ずいるわよ」
「へー、そう」
シャンクスは胡散臭そうにシャッキーを見る。
「ふふ、まだまだね。シャンクスちゃんは」
シャッキーは楽しそうに笑った。
「どうやらそうみたいだ」
シャンクスは荷物を手に立ち上がる。
「あら、もう行くの?」
シャッキーは紫煙を吐き出す。
「あァ、こう見えて忙しくて」
シャンクスはおどけながら言うと金を払う。
この店は現金主義である。
「気を付けてな」
レイリーは愛弟子に笑いかける。
「レイリーさんもお元気で」
「ハッハッハッ!まだくたばる年でもないな」
「はは、では」
シャンクスは笑いながら店を後にした。
「大丈夫かしら?」
シャッキーが閉まった扉を見ながらポツリと呟く。
「あいつなら平気だろう」
レイリーがグラスを口に運ぶ。
「でも、ずいぶんと顔色が悪かったわ」
「一度倒れて自分の限界を知るのも良い勉強だ」
「……そうね」
シャッキーがグラスを持ち上げると、レイリーがそのグラスに自分のグラスを軽くぶつけた。
「お、ベックか?これから会社に戻るよ」
シャンクスは携帯電話でベックマンへ連絡を入れる。
『そうか。大丈夫か?』
電話の向こうからベックマンが聞く。
「なんだ、心配してるのか?大丈夫だ。お前だって働き詰めだろ」
『俺は適当に休んでる』
「だっはっはっ、嘘つけ!」
『まァ、良い。資料を出しておこう』
「頼りにしてるぜ?相棒」
シャンクスは上機嫌に電話を切る。
腕時計を確認する。
「お?」
そんなに飲んだつもりは無かった。
体自体はまァ疲れもあるが、動ける範囲。
それでも倒れ行く自分の体を止めることは出来なかった。
『もう少しで救急車来ますからね!』
そんな声が聞こえた気がした。
うっすらと目を開くと天使が見えた。
(あァ、こんな天使なら、天国も良いな)
シャンクスはふと考えを止める。
(俺が天国?地獄か。なら、悪魔か鬼か?)
シャンクスは動かない頭に思考が流れた。
「起きたか」
「あァ」
目を覚ました瞬間、ベックマンの声が聞こえた。
辺りを見回すとどうやら病室のようだ。
ベックマンは枕元のナースコールを押す。
「俺は、倒れたのか?」
「そうだな」
「そうか。情けないな」
シャンクスはだっはっはっと笑った。
「良い教訓だ。これからはこの一歩手前で休みを取れ」
ベックマンは火のつかない煙草を口にくわえた。
「一歩手前な」
シャンクスは苦笑する。
「これ」
「なんだ?」
シャンクスはベックマンから紙を受け取る。
そこには住所と電話番号が書かれていた。
「お頭を助けてくれた人だ」
「あァ、そうか」
ベックマンの言葉にシャンクスは頷いた。