片付く部屋2


○○は次の箱に物を片付ける。

「ふふ、ファッション雑誌」

○○は懐かしそうに笑う。
シャンクスに少しでも振り向いて欲しくて社会人になってからは髪を伸ばし、女性らしい服を着て、化粧も研究し、美容にも興味をもった。

「……はは、今思えばあの頃が一番楽しかったかも」

○○は小さく笑った。






片付く部屋2







社会人になって2年。

下っ端の○○が社長であるシャンクスと会う事はほとんど無かったが、それでも時々社内で会うと、声をかけてくれた。
それが命の恩人に対するだけだと分かっていながら、胸の高鳴りは押さえる事は出来なかった。



そんな2月14日。

○○は義理チョコ以外に、ひとつだけ本命チョコと呼べる小さな手作りのチョコレートケーキを作った。
甘過ぎず、苦過ぎず。自分でも最高の出来だと自負していた。

しかし、社長であるシャンクスに会う方法などなく、○○は途方に暮れていた。



「…………こんな所で何をしてるんですか?社長……」

そう思っていたのに、会えてしまった。

給湯室から程近い禁煙のベランダ。
そこは人が滅多に来ないので、煙草を吸わない○○に取っては良い休憩所であった。

「お!○○じゃねェか!」

シャンクスは寒くないのか、上着も着ないでネクタイも緩め、ボーッとしていた。

「いやな、何か今日さ、女子社員に追われるんだよ。取って喰われそうな勢いで」

だっはっは!と笑うシャンクス。

「……社長。今日はバレンタインですもん」

○○は苦笑する。
シャンクスを狙う女子社員は多い。
この容姿に、人懐っこい性格。
そして、大会社赤髪の社長と言う肩書き。
多少無理目でも狙いたくなる気持ちもわかる。

(私もその内の一人……か)

○○はため息をつく。

「あァ、そうか。ったく!義理チョコなんざ要らねェから、本命くれってんだよ!」

シャンクスは拗ねた様に言う。

「…………は?」

○○は驚いた。女子社員に追われるって事は皆、本命を渡したいのだろうに。

「あ?今日ベックの奴休みなんだよ!だから代理で渡せって言われるからな」

シャンクスはそう拗ねた。

「……いや、それだけじゃないと思いますけど……」

○○は呆れながら声を出す。

「で?お前は誰かに渡したのか?」

世間話する様に聞かれる。

これは、チャンスだ。

玉砕しても渡してしまおう。

○○は持っていたチョコレートケーキの入った綺麗にラッピングされた箱を出す。

「これ」

「ん?」

「社長に……」

「は?俺?」

シャンクスは戸惑うように自分を指差す。

「あ、ありが」

シャンクスだ手を出し、受け取ろうとする。

「これ、義理じゃ、ないです」

「……」

「ほ、本命です」

「……」

「ずっと、ずっと、好きでした!わ、私あの時から」

○○は顔を赤くしながら真剣に言葉を紡ぐ。

「○○、俺」

「こ、答えないでください」

○○は小さく笑った。

「答えは分かってます。社長には付き合ってる人がいるのも知ってます。だから、受け取ってくださるだけで結構です。でも……」

「……」

「心に整理がつくまでは、好きでいさせてください」

「…………あァ」

○○の今にも泣きそうな笑顔にシャンクスは真剣な顔で頷くと、箱を受け取った。

「ありがとう、ございます」

○○はにっこりと笑うとその場を走り去った。






それから○○は吹っ切る様に仕事に没頭した。




そして、1ヶ月後。




「残業とか疲れたぁ」

○○は一人、暗い会社の廊下を歩く。

エレベータのボタンを押す。

「っ!お、お疲れ様、です」

エレベータには先客のシャンクスがいた。
○○はエレベータに乗ると閉まるボタンを押した。

「お疲れ。こんな時間まで残業か?」

シャンクスはにこりと笑った。

「はい。明日使う資料をまとめていました」

○○は照れ笑いを浮かべる。

「なぁ、今日なんの日か知ってるか?」

シャンクスが声を出す。

「え?えぇっと、……ホワイトデーです」

○○は確認して声を出す。

「これ、やる」

シャンクスが小さな箱をぽいと投げて寄越す。

「ん?」

「開けてみな」

シャンクスの言う通りに開けると、中からはブローチが出てきた。

「……綺麗」

派手過ぎず、地味過ぎず、フォーマルにもカジアルにも合いそうなブローチ。

「○○に似合うと思ってな」

シャンクスは柔らかく笑う。


ーーチーン


エレベータが開く。

「おい、行くぞ?」

シャンクスが先に降り、動かない○○を振り返る。

「っ!!貰えません!こんな高そうな物!」

○○は慌ててシャンクスを追い、ブローチを箱ごとシャンクスに押し付ける。

「は?いや、だからホワイトデーのお返し……」

「余計に貰えません!…………こんなの貰ったら、期待しちゃうじゃないですか……」

○○は困った様な顔をする。

「そ、それとも、まだ脈有りなんですか?!」

○○は少し怒った様にシャンクスを見上げる。

「……わかんねェけど、○○にチョコ貰って嬉しかった。お前の事考えて楽しかった。考えながらそれ買ったのも楽しかった」

シャンクスはポツポツと言い始める。

「……それって……」

○○は驚いてシャンクスを見上げる。

「だから、受け取ってくれ」

シャンクスは頭をガシガシとかいた。

「……諦めなくて良いんです?」

「…………あァ」

「わ、私。頑張って社長を落としますよ!!!」

「だっはっは!楽しみにしてるよ」

シャンクスは笑いながらぽんぽんと○○の頭を叩いた。



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