片付く部屋1


「よし、とっ!」

パンパンと手を叩き、ひとつ目の箱が愛着のある物で埋った。

「ふぅ。さすがに荷物も多いわね」

○○は部屋を片付ける。
ふと、まだ片付けていない棚にある写真たてを見る。

そこには幸せそうに笑う○○と赤髪の彼、シャンクスの姿。

「あれは、いらないな」

○○はぱたんと写真の面を下にして伏せた。


結婚して3年。
付き合って5年。
出会って7年。


ずいぶん長く一緒にいたと思っていたが、まだ10年も経っていない事に気付く。

「元々……釣り合ってなかったのかな」

○○は泣きそうになるのを我慢して部屋の片付けを続ける。







片付く部屋1







出会いは大学生4年の頃。

「え?えぇ?!」

目の前を歩いていた赤い髪の男がふらりと倒れた。
○○はとっさに手を出すが、体格の違いで押し潰される様に男の下敷きになった。

「だ、大丈夫ですが?」

○○が何とか上体を起こして、自分の膝の上に乗った赤い髪の頭を見下げる。

「……」

「っ!!だ、誰か!そ、そこの貴方!救急車!!!」

○○はとっさに目の前で見ていたサラリーマンのおじさんに言うと、彼は自分の携帯ですぐさま救急車を呼んでくれた。

「き、気道の確保!えっと、呼吸も脈もある!もう少しで救急車来ますからね!」

○○は赤髪の男を何とか励まし続ける。

「……」

赤髪の男が目をうっすら開けた気がした。


ーーピーポーピーポー


すぐに救急車が到着した。
救急隊員達が赤髪の男を救急車に乗せる。

「付き添いの方ですか?どうぞ中へ」

○○は戸惑いながらも一緒に救急車に乗った。





病院に着いて、処置室に入っていくベッド。
○○は心配そうにそのドアを見つめた。

「あ、誰か知り合いの人に連絡とらなきゃ」

赤髪の男のポケットから救急隊員に渡された携帯で誰かしらを呼ばなくてはと、一番最後にかけていた名前に病院の電話からかけてみる。


『もしもし』

「もしもし、あの、ベン・ベックマンさんですか?」

『……そうだが?』

「あの、ーー病院に赤髪の男の人が運び込まれました」

そう言えば名前を知らないと思った。

『……お前は誰だ?』

地を這う様な低い声。
明らかに不審者扱いを受ける。

「□□と言う者でして」

○○は慌てながらも今まで起きた事を話す。

『そうだったのか。すまない。今から向かう』

「宜しくお願いします」

○○は電話を切った。





30分ほどして、ベックマンと言う電話の男が現れた。

「まだ、処置中だそうです」

○○がベックマンに言う。

「……そうか」

と、処置室から医者が出てくる。

「彼の連れ?」

医者が○○とベックマンに声をかける。

「彼ね、過労。栄養失調。ストレス。不眠。そりゃ、倒れるよ」

初老の医者が笑う。

「そこのお嬢さんがすぐに救急車呼ばなかったら危なかったかもねぇ。まぁ、命に別状はないよ。会っておやり」

そう言うと、医者は笑いながら去っていく。

ベックマンは処置室に入っていく。
○○は帰ろうと思い、一言言ってからにしようと処置室に入った。

「あの、私帰ります」

声をかけると、ベックマンが振り返る。

「本当に助かった。改めて礼を言いたい。名前と連絡先を教えてくれるか?」

ベックマンの言葉に少し戸惑いながらも、○○は素直に教えた。








数日後。


ーーピンポーン


「はーい!」

○○は一人暮らしのアパートの玄関を開ける。

「□□○○さん?」

「あ、はい」

赤髪の男が立っていた。

「本当に助かったよ。ありがとうございました」

男は深々と頭を下げる。

「いえ!無事で何よりです。あ、もし良かったら、お茶でも」

○○が玄関では何なのでと、部屋を指す。

「……お邪魔します」

男は迷いながらも上がった。


麦茶を用意して、男の前に置く。

(大きな人だなぁ。カッコいいし)

○○はぼんやりと男を見る。

「シャンクスと言います」

「ご丁寧に……」

名刺と共に名乗る赤髪の男。

「……株式会社……赤髪?代表取締役!」

○○は驚いた。自分が今まさに就職活動先の会社の社長ではないか!

「あァ。これ、つまらないものですが」

「ご、ご丁寧にどうも」

菓子折りを机の上に置く。

「……大きいですね」

○○は菓子折りの大きさに思わず笑みを浮かべる。
しかも、超有名菓子店。
これだけでいくらする事やら。

「それだけ、貴女の行った行動は勇敢だったと思う」

真面目な顔でシャンクスはじっと○○を見る。

「あの時、貴女じゃなかったら、きっと俺はここにいなかった。礼を言う」

シャンクスは拳を作り、床に押し付け、頭を下げた。

「や!止めてください!貴方が無事で良かったです」

○○は戸惑いながらもにこりと笑った。

「本当に、お礼の言いようがなく……」

シャンクスは頭を上げる。

「ふふ、これも何かの縁ですよ」

○○はにこにこと嬉しそうに笑った。








そして、数日後、赤髪の社長面接に挑んだ○○の目の前にはなんとも間抜けな顔をした社長がいた。



そして、嬉しそうに笑った顔に、○○は恋をした。



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