01

私は今最高の気分だ。


鼻唄なんて勝手に出るし、足は自然とスキップでもしそうだ。


いかんいかん。もし転んだとしたら全てが水の泡になりかねない。


私はるんるん気分で恋人であるエース隊長の部屋の前まで来て、呼吸を整えてから軽くノックする。

「おー?」

「私、ユニ!入るよ?」

「おゥ!」

エース隊長の元気な返事を聞いてから私はドアを開けて中に入った。



エース隊長はベッドに寝そべってのんびりしていた。

「ユニ、何かご機嫌だな?」

エース隊長は不思議そうに私を見る。

「そんな事ないよ?」

私はエース隊長のいるベッドに腰を掛けた。

「そうか?」

エース隊長は体を起こし、座り込む。

「ねぇ、エース隊長?」

「ん?」

「もし、子供が出来たらどうする?」

私の言葉にエース隊長の顔が強張る。

「………………出来たのか?」

あまりの低い声に私はびくりと体を振るわせる。





怖いと、初めて思った。






「…………え?……ま、まさか!」

私は慌てて首を振る。

あまりの真剣な顔に私はおもわず嘘をついてしまった。

「なんだよ!びっくりさせんなよ!」

エース隊長はいつものにかりと言う顔をして笑った。

「……隊長は子供とか欲しくないの?」

私の視界は何だか白くなる。

「は?ガキなんて邪魔なだけだろ?俺の子供なんてなおさら……」

エース隊長は自傷気味に笑った。

「……あ!」

「あん?」

「わ、私マルコ隊長に呼ばれてたんです!」

私は慌てて立ち上がる。

「おいおい、そんな事忘れなよ!ホントにユニは抜けてんな」

エース隊長はぽんぽんと優しく私の頭を叩く。

「だ、だね!じゃあ!」

私は急いでエース隊長の部屋から出た。



気持ち悪い。


まるで、鉄の塊でも飲んだ様。


胃の辺りが冷たくて重い。


「うっ!!」

吐き気がしてその場に座り込む。

「……な、何これ」

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。


いつの間にか涙が流れていた。


しっかりと拒絶されてしまった。


私の中に育ちつつある新たな命を愛する人に。


「ヒック、ふっ」

私はその場を動けずにうずくまって泣いていた。











ーーコンコン


「入れアホんだら!」

グララララと豪快な笑い声に私の心は少しだけ軽くなった。

「オヤジさん」

「どうしたユニ?ひでぇ顔してるじゃねェか?」

オヤジさんは心配そうに私を見てくれた。

「あのね、少しお話がしたくて」

私の真剣な様子にオヤジさんはナースさん達を下がらせ、人払いをしてくれた。

「で?どうした?」

オヤジさんの顔を見てホッとする。

「……あのね、子供が出来たの」

「……そうか」

オヤジさんは一言そう言うと私の頭を撫でてくれた。

「でね。この船を降りたいの」

「降りてどうする?」

オヤジさんの目が鋭くなる。

「降りて、この子と2人で暮らしたい」

私はお腹を優しく撫でる。

「……親父は?」

「へ?」

質問の意味が解らずに聞き返す。

「そいつの親父は誰だ?」

オヤジさんの言葉に私は首を左右に振る。

「いない」

「そんな訳あるか!そいつにも落とし前付けさせてやらなけりゃ」

「オヤジさん」

私はオヤジさんの優しさに涙が出た。
オヤジさんが私とエース隊長の関係を知らないはずがない。

「海賊は自由であるべきだと思う」

「……自由と責任とは別の話だ」

オヤジさんの声色がきつくなる。

「私はね、海賊であるよりも女を選ぶの。私も、家族が欲しくなったの」

私の笑顔にオヤジさんが複雑そうな顔をする。

「ユニ……」

「オヤジさん。私の、娘の我が儘を聞いて欲しい。オヤジさんが、家族のみんなが大好きだから、私も子供が欲しいの」

私は一呼吸おく。

「私はこの船を降りて、この子と暮らすわ。この子を殺させはしない」

私の言葉に眉を寄せるオヤジさん。






愛する君と






私は愛する人よりも、愛する子供を取る事にします。

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