03

海賊達は夜遅くまで宴を開いていた。


ここは深夜営業はしていないと幹部クラスの男に言うと「そうか、邪魔をしたな」と紳士的な態度で出て行ってくれた。



そこから後片付けや掃除を終わらせてマユはようやく帰路に着いた。

時刻は既に深夜と呼べる時間。


マユは灯りの無い道を足早に歩いていた。


もう少しで自分の家が見える、そんな所で人の気配がした。

その人は小さな煙草の火で誰だか解る特徴的なヘアスタイルをしていた。

「っ!!」

マユは途端に怖くなり、早くその場を通り抜け様と走り出す。

マユがマルコを見ないように走り抜ける。

「おい」

「っ!!!」

呼び掛けられた声に思わず足を止めてしまった。

「な、何か」

煙草の火と月明かりしかない道でマユは怖々振り返る。

「遅くまで悪かったねい」

マルコはニヤリと口許を歪ませる。

「い、いえ」

マユは首を左右に小さく振る。

「ここで待ってたのになかなか来ないんで、他の奴に持ってかれたかと思ったよい」

「…………?」



ーーこの男が私を待っていた?



マユは不思議そうにマルコを見上げる。

月明かりに照らされたマルコは何とも艶かしく見えた。

「…………ここで何を?」

「お前を待ってた」

「………………何故ですか?」

「そりゃ」

ふぅーッと紫煙を吐き出す。

「お前を口説くためだろい」

「っ!」

マルコの言葉にぞくりと背中を震わせた。

「…………お、女を口説くのに他の女性の匂いをさせてどうするんですか?」

「あ?」

「甘い香りがしますよ?ルミちゃんあたりですか?」

小さな村なら誰がどんな香りの香水を使っているのかすぐに解る。

「はっ!嫉妬かよい?」

マルコは煙草を投げ捨て、足で踏み火を消した。

「まさか。それだけなら私は帰ります」

マユは冷静に声を出した。

「俺から逃げるのかい?怖がりな海兵の嬢ちゃん」

「…………私はもう海兵じゃありません」

マルコの言葉にマユは立ち止まる。

「貴方のせいで海兵は辞めました!」

「俺の言う事を聞いたんだねい」

「っ!!!」

マルコの言葉に踵を返し、詰め寄った。

「別に貴方の言う事を聞いた覚えはありません!私は貴方の様な海賊にもう出会いたくないから!」

「惹かれるからかい?」

マルコはニヤリと笑う。

「っ!!!貴方と話していても埒があきません!失礼します!!」

マユはこれ以上は無駄と踵を返した。

「…………離してください」

パシンと掴まれた腕を振りほどこうとするが、強く捕まれている訳ではないのに取れない。

「俺は海賊だ。欲しい物は奪うだけだ」

グイッとマユを引き寄せると低い声で言う。

「は?!欲しい物?」

マユは嫌そうに声を出す。

「あァ、戦場で絶望にかられたあんたの顔、姿が頭から離れねェよい」

「…………変態」

「何とでも言えよい」

ニヤリとマルコは喉を鳴らす。

「そんな俺に奪われたいって顔してるお前さんもそうとうなもんだよい」

「っ!!そ、そんな事」

「ある」

マルコは片手だけてマユを引き寄せる。

「本気で嫌がってないねい」

「…………なら、本気で嫌じゃないのかもね」

全てを見透かされている様でマユは悔しさから声を出す。

「なら、存分に奪わせてもらうよい」

マルコはマユを抱き寄せた。









月明かりの下で









「逃がしてやるのは最初だけだ。もう、逃がしはしないよい」

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