02

サヤカは毎日、毎日時間を見付けては毛糸と編棒と格闘していた。

手触りの良い毛糸は形は悪いながらも、程よい長さになってきた。

「初めてにして上出来……かな?」

サヤカは長くなるそれを見ていると、幸せな気分になった。





そして、シャンクスからメールも電話もない1ヶ月が過ぎ、ようやくクリスマスイブになる。


この日の為に用意した可愛らしいワンピースに身を包み、キラキラのアクセサリーを身に付け、髪も巻き、化粧もいつもより綺麗にする。

大きな姿見で全身を見た。

「うん!大人っぽいし、可愛い!大丈夫!」

自分を奮い立たせる様に鏡の前でにこりと笑う。

小さなバッグに財布や携帯、ハンカチなどを詰め込み、出来上がってラッピングしたマフラーを持つ。




時刻は夕方。


準備は万端だが、残念ながらシャンクスからの連絡はまだなかった。

「ベックマンさんは厳しい人だけど、約束を違える人じゃないし……」

サヤカは不安そうに携帯を見る。

「自分から連絡して怒られても嫌だしなぁ」

サヤカは苦笑した。

「仕方ない。シャンクスの会社近くまで行こう」

せっかくお洒落もしたしと、サヤカは立ち上がった。


駅へ向かい電車に乗ると、カップルだらけ。
みんながみんな幸せそうに見える。

(私もこれからデートだもん)

サヤカはにこにこと笑った。

気を抜くとにやけてしまう顔に力をいれた。






駅を降りて、会社が見えるカフェに入る。

窓側に座り、暖かいミルクティを注文した。
本当はケーキも食べたかったが、これからの事を考えて、ぐっと堪えた。

文庫本と携帯をテーブルに広げる。

メールくらいは平気かとカフェにいる事だけを知らせるメールを入れた。










2時間。

まだ、シャンクスからの返事はない。

「……暇だなぁ。本も読み終わっちゃったよ」

パタンと本を閉じる。
既に外は暗かった。

「……ダメかな?」

サヤカは少し泣きそうになる。


ーーピリリリリピリリリリ


ようやく携帯が鳴り始めた。

「は、はい!」

慌ててしまって、どもってしまった。

『遅くなった!』

シャンクスの声にサヤカは今までの不機嫌さ、不安さが吹き飛んだ。

「大丈夫です!カフェ出ますね」

『解った』

お互いに電話を切ると、サヤカは伝票を手に取った。





外で待ってると赤い顔をして、大きな紙袋を持ったシャンクスが現れた。

「…………シャンクス、お酒飲んでる?」

サヤカは衝撃を受けたように声を出す。

「あァ、少しな」

シャンクスは少しばつの悪い顔をする。

「…………」

「会社のクリスマス会だったんだよ。俺社長だから抜け出せねェし、それでも頑張ったんだからな」

シャンクスは疑惑の眼差しを受け、慌てて説明する。

「……それなら一言言ってくれれば良かったのに」

サヤカは少し不貞腐れた様に口を開く。

「悪かった。食事でもどうだ?」

シャンクスは頭を下げ、チラリとサヤカを見る。

「ん!良いでしょう」

サヤカはにこりと笑うとシャンクスの腕に自身の腕を絡めた。







タクシーを拾い、ホテルのレストランへ向かう。

「個室でも良かったんだが、あそこは眺めが悪ィからな」

予約していた席からはイルミネーションに彩られた夜景が見渡せた。

「ううん!こんなに素敵だもの!」

サヤカはロマンチックなクリスマスディナーに大満足で微笑んだ。

その笑顔にシャンクスも優しく微笑んでいた。






「…………これ、全部シャンクスへのプレゼントだ」

食事を終え、ホテルの一室について、サヤカはシャンクスの持っていた紙袋の中身を覗き込んだ。

「あ?あァ。クリスマスプレゼントだと」

シャンクスはネクタイを外しながら言う。

「……開けても良い?」

「あァ。気に入ったのがあればやるぞ」

シャンクスの言葉サヤカはがさがさと包みを開ける。

どれもこれも有名ブランドの包みだ。

財布や手袋、マフラー、ネクタイ、などなど。

「…………」

どれもこれも立派な物で、サヤカは自分が編んだ手編みのマフラーが急にみすぼらしく思えた。

「良いのあったか?」

シャンクスがワイシャツの前を肌けさせながらどかりと隣に座った。

「…………凄いのばっかりだよ!ほら!」

サヤカはわざと明るく高級なマフラーをシャンクスに巻く。

「おー、暖けェな」

シャンクスは満更でもなさそうにマフラーを見る。

「……似合ってる!」

サヤカは胸が締め付けられる様だが、にこりと笑った。

自分は所詮、こんな立派な物も買えぬほどの小娘だ。

サヤカは心の中でため息をついた。

「そうか?所でサヤカが持ってるそれは?」

シャンクスが自分とは逆側に置いてある包みを指差す。

「これは、あー、さっき買ったの!」

サヤカはそう誤魔化した。

「の、割りには“シャンクスへ”ってサヤカの字だよな?」

ニヤリと笑う顔はどうやら見逃してくれなさそうだ。

「…………一応、クリスマスプレゼント」

サヤカはおずおずと包みをシャンクスに差し出す。

「おう!さんきゅ」

シャンクスは嬉しそうに受け取ると、バリバリと包みを破いた。

「おー!マフラーだ!もしかして手編みか?」

シャンクスは嬉しそうにマフラーを取り出した。

「う、うん。一応」

シャンクスは自分に巻かれた高級なマフラーを床に投げ捨てると、手編みの少し不格好なマフラーを首に巻いた。

「どうだ?似合うか?」

シャンクスは立ち上がってサヤカの前で仁王立ちをする。

「……わかんない」

サヤカは困った様に笑った。

「なんだよ?それ」

シャンクスはだははと笑った。

「シャンクスは大人の男の人だから、こっちのが似合うよ」

サヤカは床に投げ捨てられた高級なマフラーを拾い上げる。

「そんな事ねェって」

「洗礼された、高級な物がやっぱりシャンクスには似合うよ!不格好だし、網目も荒いし!」

サヤカはにこりと笑った。

「そのマフラーまるで私みたい。まだまだ子供でシャンクスに似合わない」

ぽつりと小さく呟いた。

「……誰に何か言われたのか?」

シャンクスは真剣な顔付きでサヤカを見下ろす。

「ううん。前から思ってたの。私とシャンクスは年も職種も役職も全部離れてるから」

サヤカはぽつりぽつりと口を開く。

「そうか」

「っ!!」

ふわりとシャンクスに抱き締められた。

「悪かったな、不安にさせてたんだな」

シャンクスはしっかりとした口調だ。

「俺はお前が子供じゃないと思ってるから手も出すし、これも贈る」

シャンクスはサヤカの左手の薬指に指輪を付ける。

「え?え?!」

サヤカはシャンクスと指輪を交互に見た。









年の差なんて?!








「シャンクス!」

「ん?」

「メリークリスマス!」

「あ、あァ…………メリークリスマス」

「ふふ」

「で?返事は?」

「うふふ!」

「……こりゃ、ダメだ」

(こう言う所がまだまだ子供だよな)

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