追加される物語?

「ほらぁぁ!!気合が足りてないぞ!!」

元マチルダ騎士青騎士団長マイクロトフの怒号が清んだ空に響いた。

兵士達は2人1組になり、剣の訓練をしていた。

「それでは何も守れないぞ!!」

マイクロトフとカミューは訓練を見回りながら激を飛ばしている。


「よし、これくらいで良いだろう!終了する!」

カミューは大きな声を出し、合図をした。

「「「ありがとうございました!!」」」


カミューは風呂に入り、着替えを済ませ、夕食にレストランへ向かっていた。

「あ!カミューさん!」

呼び止められたのはエミリアであった。

「これはエミリアさん、こんばんは」

「こんばんは」

エミリアはにこりとカミューへと近付いた。

「いかがしました?」

「はい!出来上がりましたので、持って来ましたわ」

エミリアは嬉しそうに本を2冊カミューへと差し出した。

「あぁ、例の」

カミューは納得したようにエミリアから本を受け取った。前回よりは薄いが、なかなかのページ数だ。

「えぇ!追加シナリオです」

エミリアはニコニコと笑った。

「それで、申し訳ないのですが、○○さんにも渡してくださらない?」

「えぇ。良いですよ」

カミューは2冊あるのを納得する。

「ありがとう!ちょっと忙しくて。また、読めましたら感想いただける?」

「わかりました」

「では、宜しくお願いしますね」

エミリアは慌ただしく去っていった。
カミューは本をパラパラと捲った。






「おぉ、カミュー遅。……どうした?浮かない顔して」

レストランに着くとマイクロトフがカミューを迎えた。すでにカミューの分の食事も用意されている。マイクロトフの前の皿は半分ほど減っていた。

「あぁ……これがな……」

カミューは疲れた顔をしてマイクロトフに先程エミリアから受け取った本を渡しながら席についた。

「ん?あぁ、前に言っていた台本か」

マイクロトフは不思議そうに本を読み始めた。

「はぁ……どうしたものか……」

カミューはため息をひとつつき、料理に口をつけ始めた。








「………………カミュー……」

読んでいる最中から顔を赤くしたり青くしたりするマイクロトフだった。

「なんだ?」

カミューはマイクロトフを横目で見た。

「これは……なんだ?」

マイクロトフはおそるおそる聞く。

「……劇の台本だそうだ」

カミューは事実だけを口にする。

「いや、無理だろう!」

「だよな……」

叫ぶマイクロトフにカミューは疲れた様にワインを流し込む。

「だよなって……しかもこれ、○○さんは知っているのか?!」

「いや、これから渡さなきゃならない」


「……止めておけよ……」

「俺もそう思うが……エミリアさんと約束してしまってね」

真剣に諭すマイクロトフにカミューは困った顔で言う。

「そんな事言うが、これは……」

「まぁ、とりあえずは渡すさ。気は進まないがな」

「……お前も損な性分だな」

「これが女性からのお願いでなければ殴り倒す所だ」

カミューは苦笑を浮かべた。





○○は戦場と化した酒場で忙しく働いていた。今日の当番は遅番で、最後の片付けと掃除も待っている。



「あ!カミューさん!」

「いらっしゃい!カミューさん!」

酒場で働く女の子達は珍しい客に黄色い声をあげた。

「おや、珍しいね。何にする?」

カウンターに案内され、カミューは大人しく座ると酒場の主人のレオナが声をかけた。

「では、ワインを」

カミューは注文してからチラリと厨房を見た。

「ん?何か探し物かい?」

レオナはカミューの視線に気付く。さすがは酒場を切り盛りする女主人である。

「えぇ。○○さんは……」

「あぁ、あの子今日は遅番で厨房だから、当分忙しいよ。用なら明日の方が……それは野暮かい?」

レオナは艶っぽく笑った。

「いえ……」

「お待たせしました!」

「ありがとうございます」

カミューはどうしたものかと思いながら運ばれてきたワインに口をつけた。






「はぁー、今日は疲れた……」

「今日の厨房は大変だったでしょ」

酒場の営業時間も終わり、遅番の2人が仕上げの掃除のモップがけをしていた。

「うん。まさに戦場だった……ふぁ……」

○○は大きなあくびをした。

「ふふ。もうちょっと頑張っちゃおう!」

「うん!」

2人は深夜の酒場を綺麗にした。


「よし!じゃあ私鍵かけて帰るから先に行って良いよ」

「ありがとう!今日はもう、本当に眠たい……お休み!」

○○は先に酒場を出た。
部屋に着いたらすぐにベッドに入ろうと決意を固めた。


「こんばんは、○○さん」

「きゃ!な、カミューさん」

半分夢の中に入りながら歩いていた○○にカミューが声をかけたので、驚きに悲鳴をあげそうになった。

「すみません、驚かす気はなかったのですが」

カミューは苦笑しながら○○に近付いた。

「ごめんなさい、ちょっとぼーっとしていたので」

○○は恥ずかしそうに早口になった。

「……大丈夫ですか?部屋まで送りましょう」

「えっと、じゃあ、宜しくお願いします」

○○の笑顔にカミューも笑うと一緒に歩き出した。

「ところでカミューさん。どうしたんですか?こんな夜遅くに……その格好じゃ、見回りと言う感じでもなさそうですね」

○○は不思議そうにカミューを見上げた。
カミューはいつもの騎士服は着ていなくラフな物だ。しかし、愛剣ユーライアは腰に下げていた。


「えぇ………。実は」

カミューは歯切れ悪く口を開いた。

「実は○○さんを待っていたのです」

カミューは○○から視線を外した。

「私を?じゃあ、とりあえず部屋に」

話している間に部屋の前に着いた。○○はいつもと違うカミューを不思議に思いながら部屋へ招いた。

「こんな夜更けですが……」

「あぁ、部屋は片付けて出たので大丈夫ですよ」

○○は眠い頭で考えるので、的外れな事を言う。

「……失礼します」

カミューは少し躊躇したが部屋へ足を踏み入れた。

「お茶入れますから椅子に座って待ってくださいね」

○○は簡易台所でヤカンを火にかけた。
部屋は狭く、小さな丸机と椅子が一脚、小さなタンスそしてベッド。その代わり、簡易台所がついていた。

カミューは大人しく椅子に座った。

「紅茶で良いですか?って言っても上手に入れられる訳じゃないですけど」

「えぇ。○○さんに淹れていただけるのならば」

カミューは笑顔で答えた。

○○はカミューにはストレートで、自分にはミルクと砂糖たっぷりの甘い物を作った。
○○は紅茶を丸机に置くと自分はベッドに腰を落とした。

「いただきます」

「どうぞ」

「うん、美味しいです」

「ありがとうございます」

2人は紅茶を飲むと一息いれた。

「で?どうしたんですか?」

○○は不思議そうにカミューを見た。

「あぁ……エミリアさんから新しい台本を貰ったのですが……」

やはり歯切れ悪いカミューを不思議に思いながら出したを受け取った。





『○○……』

『いっ!……ん』

カミューは○○を組敷き、口付ける。

そこには、愛はない。





「……あーあ……」

○○は呆れながら台本をパラパラと捲った。

「……」

カミューは無言、無表情で紅茶を飲んでいた。

「はぁ……」

○○はぱたんと読み終わった台本を丸机に置いた。

「……」

「……」

「……」

「……これは……無理ですよね。劇に出来ないですし、何より子供に見せられない」

○○は苦笑しながら頷いた。

「えぇ……」

「カミューさん、お疲れ様でした」

○○はペコリと頭を下げた。

「え?」

「嫌な役回りてましたよね。この台本。その、自分の名前ですし」

驚くカミューへ○○は笑顔で言う。

「いえ……」

「これは私からエミリアさんに返しておきますよ。やれないと」

「そうしていただけるのならば助かります」

ホッとした様にカミューは○○を見た。

「しかし、エミリアさんにこんな趣味がたったなんて」

○○は乾いた笑いをした。

「我々は見なかった事にしましょうか」

カミューは苦笑しながら台本に視線を送った。

「はい…そう……しま……す」

「○○さん?!」

「ん……すーすー」

突然○○はベッドに倒れ込むと規則正しい寝息をたて始めた。

「……え?……○○さん?」

カミューは椅子から腰を上げてベッドに近付いた。

「……○○……」

すやすやと気持ち良さそうに眠る○○をカミューは柔らかい笑みを浮かべた。

そっと手を伸ばし、○○の頭を撫でた。
くすぐったいのか○○はカミューの手の動きに合わせて身動いだ。

「…………一応俺も男なんですがね。しかもあんな本を見せられた後ですよ?」

カミューはそっと手を○○の頬に滑らせた。

「ん……カミュー……さん」

○○は小さく声をもらした。

「……っ……はぁ、何をやっているんだ……」

カミューは立ち上がるともう一度○○の頭を撫でた。

「お休みなさい、○○さん」

カミューはそう呟くと布団を○○へかけ、部屋の明かりを消した。


「……」


カミューは静かに部屋を出た。










「エミリアさん!」

「あ!○○さん!」

「これ……」

「あぁ、どうだったかしら?」

「……無理ですよね?」

「やっぱりダメかしら」

「ダメですよ!」

「あら、顔、赤いわよ」

「っ!そ、そりゃそうなりますよ!」

「そうね、残念!記念に持って帰る?」

「……遠慮しておきます」

「そう?劇の方はまだ手伝ってね」

「はい!もちろんです!」





この後、図書館の奥の棚に、名前の消えた台本らしき物が置いてあるらしい。

ちょっとした裏のブームになったそうです。

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