演劇しよう!
「今日は暇だねぇ」
酒場の主人であるレオナがキセルをふぅーと吐き出した。
「今日はレストランが半額セールですからね。なんでも、お酒も半額で、デザートだと3割引きらしいですよ」
○○はお皿を拭きながら答えた。
「まぁ、俺たちには丁度良いけどな。静かで」
ビクトールは豪快に酒を煽った。
「本当にな!」
フリックは上機嫌でそう言った。
「?なんでフリックさんはそなに嬉しそうなの?」
○○は不思議そうに首をかしげた。
「あれだ!ニナがあっちに並んでるからな!」
ビクトールがフリックに代わり言う。
「あぁ、女の子達で並んでましたね」
○○は納得したようだ。
ーーガチャ
「おや、珍しい客だね」
レオナは酒場の入口を見ながらそう言った。
「こんにちは」
「カミューさん!いらっしゃいませ!」
酒場に来る事が少ないカミューが入って来た。
「お?マイクロトフは?」
ビクトールはカミューが一人なのに気が付いた。
「あいつはレストランです」
「まさか……一人でか?」
「フフ、さぁ」
カミューは不敵な笑いを浮かべるとカウンターに座るフリックの隣に腰かけた。
「何にする?」
「では、ワインを」
「はいよ、○○」
「あ、はーい」
○○はグラスをカウンター越しにカミューの前に置き、ワインをつぐ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
カミューはにこりと笑うとワインに口をつけた。
「○○!俺にも」
フリックが空のグラスを掲げた。
「はーい、と」
○○はフリックのグラスにはラム酒を注いだ。
「サンキュ」
ーーーガチャン!
「これはこれは……珍しい客だね………」
レオナは驚いた顔をして入口を見た。
「エミリアさん!珍しい!」
○○も思わずそう声を出した。
「ごきげんよう、皆さん!フリックさん!あら、カミューさんも!良かった!!」
「あぁ?」
「こんにちは、エミリアさん」
突然名前を呼ばれたフリックは訝しげに振り返り、カミューはにこりと挨拶をした。
「出来ましたよ!なかなか良いお話が無かったのでワタクシ、書きましたわ」
にこりと興奮気味にエミリアは本を出した。
「これは?」
「……嫌な予感しかしねぇ」
近くにいたカミューがその本を受け取った。
皆、カミューの手の中の本を見た。
「……台本……ですか?」
「そうです!さすがカミューさん!」
カミューの言葉にエミリアは感動したように叫んだ。
「……これ……フリックさんとカミューさんの名前が書いてありますね」
パラパラとめくる本を見て○○は不思議そうに声を出した。
「そう!実名の方が良いと思いまして!」
「余計だ!!」
エミリアのにっこり顔にフリックは嫌そうにした。
「ハッハッハッ!面白いな!で?どんな話なんだ?」
ビクトールはニヤニヤと笑いながらエミリアに聞いた。
「えぇ。簡単に言うと領主のヒロインと幼なじみのフリック、そしてヒロインの許嫁の貴族カミューの三角関係の話ですわ」
エミリアはにっこりと早口で捲し立てた。
「へぇ。ヒロインは誰がやるんですか?」
○○は台本に名前が無いヒロインを不思議そうに指で指した。
「まだ決まってないの。ヒロインは書きあがってから決めようってU主様が」
「なるほど!」
カミューはパラパラと台本を最後まで見るとフリックの目の前に差し出した。
「……なんだよ」
「読まないのですか?」
「…………嫌だ!」
フリックは嫌そうにカミューに噛み付いた。
「エミリアさんが我々の為に用意してくださったものです」
にっこりと有無を言わさぬ笑顔でフリックに台本をさらに近付けた。
「……くっ!」
フリックはカミューからひったくる様に台本を受け取ると、パラパラと読む。
どんどんと顔を青くして行く。
「……」
「フリックさん?」
フリックの様子に○○は遠慮がちに声をかけた。
「こ……」
「こ?」
「こんなの出来るかぁーー!!!」
フリックは叫びながら立ち上がった。
「ま、まぁ、粗筋を聞くだけでも、こてこての恋愛物って感じがしますよね………」
○○は苦笑して、ビクトールは笑いをこらえて涙目になっていた。
「ではさっそく台詞合わせでも」
エミリアはさも当然と言う様にカミューフリックを見た。
「台本を今見たばかりですが?」
さすがにそれは、とカミューも困惑の色を示した。
「雰囲気が合うか見たいの。ダメだったら手直ししないと!」
「さすがですね」
「ええ!やるからには満足行く物にしたいですわ」
「解りました」
「お、おいカミュー!」
「ただの朗読ですよ、フリック殿」
カミューはまたにっこりとフリックを見た。
「いってらっしゃい」
○○は「ちょっと気の毒に」と思いつつ手を振る。
「お前もだ!」
「え?」
「レオナ!この暇さなら一人くらい減っても良いな?!」
フリックはレオナに怒鳴る。
「あぁ、良いとも」
「れ、レオナさん?!」
「行くぞ!○○!!元はと言えばお前のせいだからな!」
フリックは○○の手を掴むと、強引に引っ張った。もはや、八つ当たりである。
「ちょうどヒロイン役も欲しかったの!○○さん宜しくね」
エミリアは嬉しそうに笑うと酒場を出る。その後にフリック、引っ張られる○○、カミューそして「楽しそうだ」とビクトールが並んだ。
○○は助けを求めてカミューを見上げるが
「○○さんと一緒で光栄です」
と素敵な笑顔で言われてしまったので、何も言えなくなった。
その様子を後ろから見て、面白そうにニタニタと笑うビクトールがいた。
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