恋愛小説

アシタノ城にも書庫がある。
そこを図書館と言う形で城に住む人々に解放されている。






「『ロミオ様、どうしてあなたはロミオ様なの』……か」

天気も良い昼間、○○は日向ぼっこをしながら図書館で借りた本で読書中である。

○○は有名なこてこてな恋愛小説『ロミオとジュリエット』を読んでいた。
何でも司書であるエミリア一押しの小説らしい。

「うーーー、切ない!切な過ぎる!!どうして好き合ってるのに、ハッピーエンドじゃないのかな……」

○○は一度読んだ本をもう一度読み直していた。

「現実なんてなかなか上手くいかないんだから、せめて小説ではハッピーエンドにして欲しいよ……」

○○はため息をつきながら想い人である元マチルダ騎士赤騎士団長のカミューを想い浮かべた。


最初は名前さえ知って貰えていなかった相手だが、今では「おかえりなさい」「いってらっしゃい」を言う仲にまで発展していた。

この2つの言葉は不思議なもので、「おかえりなさい」を言うと「ただいま帰りました」と返って来る。「いってらっしゃい」と言うと「行って参ります」と返って来る。
当たり前の様に聞こえるが、気持ちが、心が近付いて行く様に思えた。

すでにこの挨拶は2人の間で何回も交わされていた。

しかし、だからと言って想いが通じた訳でも、ましてや恋人同士になっている訳でも無い。



「折角2人は想いが通じたのに………しかもジュリエットなんて14歳!切な過ぎるよー」

○○は項垂れていた。


「はぁ……そろそろ帰ろうかな」

○○は立ち上がり、お尻を叩くと本を持って図書館へと向かった。







「あら○○さん、こんにちは」

「こんにちは、エミリアさん」

図書館を開けて中に入るとカウンター越しにエミリアが挨拶をした。

「これ、借りていた本ありがとうございました」

「どうでした?」

○○がエミリアに本を差し出すとすかさず感想を聞いた。

「え、ええ……そうですね。ショックでした」

「フフ。正直な感想ね」

「やっぱりハッピーエンドの方が良いです」

「そうね。でも途中経過も良かったでしょ?ロミオがジュリエットの庭に行く所なんか」

「『ロミオ様、どうしてあなたはロミオ様なの?』って所ですか?」

「そうそう!素敵よね。あんな風に情熱的に口説かれたいわ」

エミリアはうっとりした顔をした。

「『その名を捨ててくだされば私もただのジュリエットになれますのに』……」

エミリアはジュリエットになりきってセリフを呟く。

「私ね、昔演劇で『ロミオとジュリェット』を見てから大ファンなの」

エミリアは嬉しそうに話す。

「演劇?」

「ええ。昔、グリンヒルに演劇団が来てね。その時の演目が『ロミオとジュリェット』だったの。ロミオ様が素敵で……」

エミリアは再びうっとりとした顔をした。もう○○の事は見えていないようだ。

「へー、演劇ですか!見てみたいですね」

「でも、このご時世なかなか見れないわね」

「そうですか……」

エミリアの残念そうな声に○○も残念そうな顔をした。




「こんにちはー」

「こんにちは」

「あらお揃いで!」

図書館にU主とその姉のナナミ、アイリ、フリック、マイクロトフそしてカミューが入って来た。

「おかえりなさい」

○○は笑顔で6人に挨拶をした。

「○○さんただいま!」

「うわっと!おかえりナナミちゃん」

ナナミは叫びながら○○に抱き付いた。

「あ〜○○さんのおかえりなさいって聞くと「帰って来たー!」って気がする」

嬉しそうに笑いながら顔を刷り寄せた。

「本当?ありがとう!」

○○も嬉しそうにナナミをぎゅっと抱きしめた。

「まぁ、悪い気はしないよね」

アイリはそう言って2人に近付いた。

「そう?」

「うん。私達旅芸人だから決まった家とかないしね。なかなか「おかえり」って言われないよ」

「そうなの!私も一人で住んでた時は寂しかった!」

アイリの言葉にナナミが頷く。

「そっか。おかえり、アイリちゃん」

「う、ただいま」

にっこりと笑う○○を見て恥ずかしそうに顔を伏せながらアイリは小さく返事をした。

「アイリったら顔真っ赤!」

「うるさい!」

ナナミとアイリは楽しそうにキャッキャと騒いでいる。

「コラコラ!図書館では静かにお願いします」

エミリアはクスクスと笑いながら注意した。

「「ごめんなさい」」

「はい、良くできました。所で今日はどんなご用かしら?」

エミリアはU主に向き直った。

「あ、はい!また本を見つけたので持って来ました」

「あら、また古そうな本ですね」

「……役に立ちませんか?」

「いえいえ、そんな事はありませんわ!古い本は歴史的にも価値があるものもありますよ」

「それなら良かった」

U主はホッとした表情を浮かべた。

「もちろん!それにしても、今日のビジュアルは素敵ですね」

エミリアはにっこりと笑うと後ろに控えていたフリック、マイクロトフ、カミューを見た。

「びじゅある?」

ナナミは不思議そうに○○の方を見た。

「えっと見た目とかの事かな?」

「そうでしょ!なんたって美青年だから」

「……確かに」

こそこそとナナミと○○は笑った。

フリック、マイクロトフ、マイクロトフの3人は城の中でもずば抜けて綺麗な顔立ちをしていた。

「あっ!」

○○は突然声を出した。

「どうした?いきなり」

フリックは○○の方を見た。

「いや、せっかくこんなにカッコイイ人が揃っているのなら……」

「「なになに?!」」

ナナミとアイリは興味津々だ。

「うん、さっきエミリアさんとも話してたんだけどね。演劇の話」

「演劇?」

「わぁ!楽しそう!」

「あら、良いわね」

女性軍はノリノリで話始めた。

「いや待て!おかしな話になってるぞ!」

フリックは不安そうな声を出した。

「え、だから、劇をふりっーーくふ!」

フリックは慌てて○○の口を手のひらで塞いだ。

「フリックさーーん!」

「嫌だ!」

「まだ何も言ってないよー」

ナナミの楽しそうな声をフリックは遮った。ナナミは不服そうに口を尖らせる。

「フリックさん酷い!」

えーんとナナミは泣き真似をした。

「あーあ、泣かしちゃった」

アイリはナナミを抱きかかえて「よしよし」と慰め始めた。

「うっ…」

フリックは怯みながらカミューを見た。

「……」

「……」

カミューは女性の味方なので、にっこりと笑っているだけだ。助け船を出す気はさらさら無いようだ。
ついでにマイクロトフの方にも目を向けたが、おろおろとしているだけであった。

「話だけでも聞いてあげてよ」

U主は申し訳なさそうにフリックを見上げた。

「くっ!……はぁ仕方ない、聞くだけだ」

フリックの言葉にナナミは嬉しそうに顔をあげた。

「うん!みんなで劇をしようよ!フリックさん主役で良いから」

「嫌だ!」

「あ!でもせっかくだからカミューさんも主役が良いな」

「それは光栄ですね」

「もちろんマイクロトフさんも!」

「お、おれもですか?」

「俺は無視か!」

フリックを置いてきぼりで話は進んで行く。

「フリックさんに似合うのってなにかな?」

ナナミは楽しそうに声を出した。




「はぁ……」

「時にフリック殿」

「なんだよ」

疲れはてたフリックにカミューが話しかけた。

「そろそろ○○さんを離してはいただけませんか?」

「おっと!悪いな」

カミューは自然な仕草でフリックから○○を自分の方へと引き寄せた。

「はぁ、びっくりした。あ、ありがとうございます、カミューさん」

「いえいえ」

○○は意外に近いカミューに驚きながらも、礼を言った。

「あ!カミューさん、おかえりなさい」

「はい、ただいま帰りました」

○○の言葉にカミューも柔らかい笑顔を浮かべた。



「こうしちゃ居られないわ!私、みなさんに合うような話を探して来ます!」

エミリアは鼻息荒く図書館の奥へと姿を消した。

「私達はヒロインとか、他の候補をリストアップしてくるわ!」

ナナミとアイリは楽しそうに図書館を後にした。

「あ、ぼくも行ってくる。あの2人じゃ本当に暴走するから」

U主は急いでナナミとアイリを追って行った。

「……はぁ……」

「フリックさん?」

「酒でも飲んでなきゃやってらんないぜ」

フリックは顔を青くして酒場へと向かった。



「皆さん行っちゃいましたね」

マイクロトフがポツリと呟いた。

「何だかすみません……私が余計な事を言ってしまったせいで……」

「あ!いえ!○○さんのせいではないですよ!」

「でも……」

「気にする事はありませんよ」

カミューが優しく声を出した。

「せっかくです。少しの娯楽は必要ですよ」

「そうだな」

カミューの言葉にうんうんとマイクロトフが頷いた。

「そう……ですね。せっかくなら皆さんに楽しんで貰える様にしましょうね!私も頑張ります!裏方で!」

○○は力一杯頷いた。

「裏方ですか?」

「はい!きっとやる事はいっぱいあるでしょうし。私、縁の下の力持ちになります!」

「おや、それは残念ですね。○○さんが相手役なら気合いも入るのですが」

カミューは残念そうに言う。

「カミューさんの?!そんなの緊張しちゃって演技どころじゃなくなります!無理です!」

○○は顔を左右に振った。

「それは残念です。さて、我々はそろそろ報告書を軍師殿に出しに行きます」

カミューはちらりと太陽の位置を確認した。

「あ!はい!いってらっしゃい!」

「いってきます」

「では」

元マチルダ騎士団長達を見送り、○○はヒロインやりたいなぁと少しだけ思った。

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