ごっこ遊び
外は生憎の雨模様。
洗濯物は乾かず、戦士たちは外にも出られず城の中で体をもて余していた。
そんな中、元気なのは子供達である。
○○は昼を過ぎた酒場から解放され、なんとなくぷらぷらと歩いていた。
「「待てーー!!」」
子供達に行く道を阻まれ、囲まれた。
「おのれ!ルカ・ブライト!今日こそこのU主がやっつけてくれる!」
子供はこの城の城主で同盟軍リーダーであるU主の名前を語った。要するに、ごっこ遊びである。
「あ……。ふはははは!お前らごとき小物に俺が倒せるものか!」
この雨で遊ぶ場所がかげられてしまった子供達のために、○○は少し相手をする事にした。
「おれはせいらいのフリックだぁ!」
「おれはくまのビクトールだぁ!」
「ぼくは解放軍リーダーアシタノだぁ!」
子供達は次々と名乗りを上げていく。
「くはははは!小物が何人来ようと同じだ!」
「「「「たぁぁぁーー!!」」」」
「ぐはーー!やられたぁ……」
子供達に殴りかかられた○○は派手にその場に倒れ込んだ。
「やったぞ!」
「悪はほろびるのだ!」
「正義は勝つのだ!」
子供達はわいわいと喜ぶ…が
「ふふふ、これしきの事で勝ったと思ったのか!」
○○はゆっくりと立ち上がった。
「なんだと?!」
「お姉ちゃんズルイ!」
「立っちゃダメ!」
「もう一度!」
子供達は次々と不満を口にした。
「おれに任せろ!俺はマチルダ騎士のカミューだぁ!とぅ!!」
後ろから現れた子供に○○は木の棒で切られるふりをする。
「ううぅ…やられた…」
○○は再び地面に倒れた。
「今度こそ勝った!」
「強いあいてだった!」
「きょうてきだった!」
「お姉ちゃん起きちゃダメだよ!」
わいわいと子供達は奥へと走り去って行った。
「……○○さん?どうしたのですか?」
城の廊下を歩いていたカミューは、わいわいと楽しそうに走って行く子供達とすれ違った。
そして、その先には○○が床に寝そべっていた。
一瞬、怪我か体調でも悪くなったのかと驚いたがそうでは無いようなので安心しながら近付いた。
カミューは子供達と遊んでいたのだろうと結論つけた。
「……カミューさんですか?私、今カミューさんに倒された所なんです」
目は瞑ったままクスクスと○○は笑った。
「なるほど、では責任を持ってお手をお貸しいたします」
カミューは少し腰を曲げる様にかがむと、やうやうしく手を出した。
○○は少し照れながらもカミューの手を取り、立ち上がった。
「今回は何でした?」
「ルカ・ブライトになりました。いいところまで追い込んだのですが、カミューさんに倒されちゃいました」
「それはそれは」
クスクスとお互いに笑いながら話した。
子供達のごっこ遊びは色んな人が巻き込まれる。ノリノリで返す○○やビクトールなどは、よく相手をさせられるのだ。
「雨ですからね。子供達もお外で遊べなくてつまらないんでしょうね」
○○は今もまだ降り続ける雨降る空を見上げた。
「そうですね。ここに帰って来ると平和に思えてほっとします」
カミューも空を見上げた。
「……」
「○○さん?」
急に黙り込んでしまった○○を不思議そうに覗き込む。
「……」
「どうかしましたか?」
「……いえ」
「何か気になる事があるなら喋ってしまうと良いですよ。溜め込むのは良くない」
カミューは優しい笑顔をした。○○はそんなカミューを見てポツリポツリと口を開いた。
「私……このままでも良いのか……と」
「と、言いますと?」
「ここは平和です。けど、他の町や村は戦争に巻き込まれ、怖い思いをしていると思います」
「……」
「それに、カミューさんやビクトールさんたちは最前線で戦っているし」
「それが仕事です」
「はい…。それに、私より小さな子供達も戦いに出ています」
「……」
「なのに、私はこの平和な、守られている城でぬくぬくと何もせずに過ごしていて良いのか……と」
「……」
「……」
「○○さんは酒場でちゃんと働いているではありませんか」
少しの沈黙後、カミューはそう声を出した。
「それは、自分が生きるため、です」
○○は苦しそうに胸の前の服を握りしめた。
「厳しい事を言いますが、○○さんが戦場に出ても……」
「それも分かっています。きっと10分も持たずに死んでしまいます」
○○は苦しそうに笑った。
「では、笑顔で「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」と言ってください」
カミューの言葉に驚き○○は顔をあげた。
「え……それだけ……?」
「そう言いますが、大切な事ですよ」
カミューは優しく○○に近付いて目線を合わせた。
「我々が守っているのはこの笑顔なんだな、と確認させてください」
「守る……」
「ええ。俺は笑顔を守る為に戦う。分かりやすくて単純。しかしそれが難しいのですから」
「……」
「それに」
「それに?」
「男と言うものは意外と単純に出来てまして、素敵なレディに声をかけてもらうだけで嬉しいものです」
カミューはイタズラっぽく笑った。
「カミューさんもですか?」
○○は驚きながらもクスクスと笑った。
「ええ」
「私が相手でも?」
「もちろん!○○さんは魅力的なレディですし」
○○は笑いながら、少し涙を流した。
「ありがとうございます、カミューさん。元気が出ました!雨だと色々嫌な事を考えてしまいました」
「いえ、私は素直な気持ちを言ったまでです。それでも元気が出たなら良かった」
○○の晴れやかな笑顔にカミューも嬉しそうに笑った。
「今度からちゃんと「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」って言いますね」
「はい、素敵な笑顔で宜しくお願いします」
○○はカミューの優しさに、改めて彼を好きな気持ちが大きくなっていった。
数日後
今回の遠征組にカミューが参加すると聞き付けた○○は息を切らせながら走っていた。
「お!カミューも今回遠征なんだな、宜しく」
同じく遠征組のフリックとビクトールが途中でカミューに出会った。
「珍しいな、マイクロトフは一緒じゃないんだな」
「ええ。いつも一緒と言う訳ではありませんよ」
「まぁ、青いのは1人で充分だな!」
「うるせーぞ、この熊!」
ビクトールの軽口にフリックは鉄拳を喰らわす。
「痛っ!」
「はぁはぁはぁ…まっ待って!!」
○○はようやく追い付くと、声を必死にあげた。
「おっ!○○じゃねーか」
「どうした?」
ビクトールとフリックが○○を先に見つけた。カミューはビクトールの陰から顔を出し、少し遅れて○○を見た。
「はぁはぁはぁ…」
○○はつらそうに息を整える。
「オイオイ、大丈夫か?」
ビクトールが少しだけ心配そうな声を出した。
「あ、あの、はぁ………」
最後に大きく深呼吸をする。
「カミューさん!気を付けていってらっしゃい!」
息を切らせながらもにっこりと笑うとそう言った。
「ええ。行って参ります」
ビクトールとフリックの驚きの顔を無視して満足そうにカミューは手をあげた。
「ビクトールさんも!フリックさんも!気を付けていってらっしゃい!」
「お、おう!」
「あぁ」
○○の笑顔に驚く2人だったが、笑って返した。
「あっ!じゃあ私仕事抜けて来たから!」
○○はそれだけ言うと引き返した。
「おい、○○!」
「ん?」
ビクトールの呼び掛けに○○は振り返った。
「なんか土産持って帰って来るから楽しみにしとけ!」
「ありがとう!気を付けてね!」
○○は大きく手を振りながら酒場の方へ消えて行った。
「お前らいつのまにデキてたんだよ?」
ビクトールがニヤニヤとカミューの背中を肘でぐりぐりと押した。
「残念ながら、あなたが思っている関係ではないですよ」
「かーー!関係だってよ!」
「聞いたか?」とフリックにビクトールは話を振った。
「しかし、またいきなりどうしたんだ?」
フリックは不思議そうにカミューを見た。
「フフ。秘密です。でも、なかなか良いものでしょ?」
カミューは楽しそうに○○が消えた方を見ていた。
「まぁな」
ビクトールはニヤリと笑いながらカミューと同じ方を見た。
「……」
フリックも無言ながら酒場の方を見つめた。
おまけ
「ねえ、レオナさん。ビクトールさんからお土産貰ったんですか……」
「へぇ、あいつがねぇ。何を貰ったんだい?」
「……カットバニーの燻製……」
「……」
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