誤解を解く
階段を登りきると、また扉があった。
(さっき言ってた「火は消えております」って、ここの事だったのね)
目がなれると、階段の上の方には等間隔でろうそくが置いてあった。
カミューはまた鍵を使い、扉を開けた。
ーーーカチャリ
扉が開き、中に入る。
「っう……わぁ」
○○は声をあげた。
扉を入ると、そこはとても豪奢な作りの部屋だった。
入るとすぐに革張りのソファーとローテーブルがおいてあり、高級感溢れている。
窓からの景色も、素晴らしく眺めも良い。
少し奥には大きな上品なベッドが見えた。
○○は先程までの不安を忘れて部屋の素晴らしさにしばしば立ち尽くした。
「はぁ……」
カミューのため息が聞こえ、慌てて振り返る。
扉の横に専用の鍵を置く場所もあり、そこに鍵をしまっている所だった。
「あ……」
○○はまた一気に不安が溢れだした。
カミューに会えて高鳴る胸だが、やはり、カミューには迷惑だっただろうか。
カミューにはもう美人の恋人がいるかもしれないと言うのに……。
「あ、あの、カミューさん」
○○は沈黙に耐えられなくなり声を出した。
「わ、私やっぱり……」
○○は急に怖くなり、部屋を出ようと進み出す。
そこにカミューがまた○○の手を握り、もう片方の手で○○の顎を掴むと、上を向かせる。
「っ!んっ」
そのままカミューは○○の唇を奪う。
「はっ……ん」
今までのカミューからは想像できなかった激しい唇に○○は目眩を起こしかける。
「っ!ま」
カミューの手が、○○の手を離すと服の中に入ってくる。
「ま、ん、って、か……みゅ……さん」
○○は必死にキスの間に声を出す。
「ちょ、待ってください!!」
○○は熱に流されそうになる体を必死で叱咤する。
「……○○さん」
カミューは切なそうに声を出す。
「っ!ま、待ってください」
カミューの色気漂う声にまた流されそうでも何とか両手を押し出した。
「わ、私、こ、ここまで歩いて来たから汚いです!」
何だか自分で言っていてずれたなと思いながらも叫んだ。
「私は気にしませんが」
カミューは○○と体を密着させたまま言う。
「私が気にします」
○○は恥ずかしさでどうにかなりそうなまま声を出した。
「……わかりました。風呂場はこちらです」
カミューはやれやれと苦笑しながら、○○を案内する。
「なるべく早く出て来てくださいね。俺はもうずいぶん待ちました」
カミューはにこりと笑うと風呂場の扉を閉めた。
「……か、カッコイイ……」
○○は久し振りのカミューを見て、そう呟いた。
○○は服を脱ぐと浴室へ入る。
浴槽にお湯を溜め、その間にシャワーを浴びる。
髪と体を丁寧に洗い、湯船に入った。
カミューに他に恋人がいるのとは、やはり自分の思い過ごしだろうか?
では、あの女性は何だったのだろうと、○○は湯に浸かったまま考えた。
考えても仕方がないと、○○はカミューに言われたので、早目に風呂を出た。
カミューがソファーに座っていると風呂場から、頭だけ○○が顔を出した。
「カミューさん、着替えが……私の服知りませんか?」
○○がおずおずと声を出した。
「クリーニングに出しましたよ。この宿屋のサービスなんです」
カミューはにこりと笑った。
「……あ、ありがとうございます」
○○はそう言う。
「……?こっちに来たらどうですか?」
カミューがクスクスと笑った。
「……カミューさん、分かってて言ってますね」
「さぁ、なんの事か」
にこりとカミューは笑った。
「……」
「ふぅ、誰もいないのだから、そのままの姿で構いませんよ?」
「わ、私が構います」
○○は顔を真っ赤にしながら抗議する。
「確か、風呂場のクローゼットにバスローブがあるので、それを着てください」
カミューはクスクスと楽しそうに笑った。
「お、お待たせしました」
○○はペタペタとバスローブ姿でカミューの座るソファーに近付いた。
そして、カミューとは別の一人掛けのソファーに腰を下ろす。
「あの、カミューさん」
「はい?」
真剣な顔の○○にカミューは真面目に返事をした。
「カミューさんと私は、恋人同士ですか?」
「もちろん」
カミューは○○の言葉に間髪入れずに即答する。
「では、あの、カミューさんにとって、私以外の恋人って、いますか?」
○○はじっとカミューの目を反らさずに言った。
「いいえ、貴女だけです」
カミューはまたもや力強く即答した。
「あ、あの……。ロックアックスからアシタノ城へ戻った時に、私を部屋に入れなかった後、女性を部屋に入れましたよね?」
○○は核心をつく話をする。
「……いいえ?」
カミューは真面目に否定する。
「…………」
「○○さん?」
「私、見たんです。カミューさんが、女性を部屋に入れる所を」
○○はバスローブの裾を掴んだ。
「え?ちょっと待ってください」
カミューはあの日の事を思い出そうと必死に頭を働かせる。
「髪の長い、色っぽい美人の女性で。プロポーションもバッチリでした」
○○がカミューを見る。
「あ、あぁ」
カミューは思い当たるのか、頷いた。
「彼女はリンネの子ですね。シーツを代えてくれました。時間にしても、長く見積もって3分くらいです」
カミューはきっぱりと言った。
「……私、その人にお守りを返されました」
○○は辛そうな顔をする。
「これですか?」
カミューは騎士服のボタンを何個か取ると、首から下げた例のお守りを取り出した。
「それ!」
○○が驚いた顔をする。
「ちゃんと道具入れに入れておいたら、中身だけ残して○○さんの居なくなった部屋にありました。もう無くしたくないので、こう、首から」
カミューは苦笑した。
「……じ、じゃあ、私……カミューさんといて、良いんですか?」
○○は小さく呟いた。
「勿論です。俺はもう貴女が居ないだけで取り乱す様な情けない男になりましたよ」
カミューはイタズラっぽく笑った。
「カミュー……」
○○はカミューの名を呼びながら、抱き付いた。
「○○」
カミューは○○を受け止めた。
「不安な思いをさせて申し訳ありません」
「ううん、私こそ、ごめんなさい」
○○は首を左右に振り、謝罪した。
涙が流れ落ちるのを見て、カミューはそっと口付ける。
「もう離しませんので、そのつもりで」
カミューは笑う。カミューの目はいつもの冷静さは無く、赤い情熱を宿している。
「……はい」
○○が頷くとカミューは再び熱い口付けを送った。
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