依頼
○○はカミューが綺麗な女性を部屋に招き入れた所から走って逃げた。
「くっ……ふっ……」
○○は深夜のアシタノ城を歩いていた。
そこには誰もいなく、辺りは静まり、○○の声を圧し殺した泣き声が響いた。
「誰かいるの?」
声に驚いてビクリと震えた。恐る恐る振り返ると診療所で働く看護婦の姿があった。
「あぁ、○○さん、こんばんは。どうかした?」
看護婦はにっこりと笑った。
「あ……いえ……」
○○は袖口で涙を拭った。
「これ、使って。擦ると肌が傷付くわよ」
看護婦は何も聞かずそっとハンカチを差し出した。
「あ、りがとう、ござい、ます」
○○は何とか落ち着きを取り戻した。
「……確か、マイクロトフさんの……」
○○はおずおずと声を出した。
「みーんな、そればかりね」
クスクスと看護婦は笑った。
「す、すみません」
○○は急に恥ずかしくなり慌てて謝った。
「良いのよ、彼にプロポーズされたのも、OK出したのも事実だし」
看護婦は明るく笑った。
「ところで○○さん、お願いがあるんだけど」
「え?はい?」
看護婦の言葉に何だろうと首をかしげる。
「お弁当を作って欲しいの。なるべく持ち運びし易いの」
看護婦はにっこりと笑った。
「お、お弁当……ですか?」
○○は不思議そうに言う。
「えぇ、ハイ・ヨーさんより貴方が良いの。頼める?」
「良いですよ」
○○はこのまま部屋に帰って寝るよりも気が紛れると承諾する。
「本当に?!ありがとう!夜遅くにごめんね?」
看護婦は嬉しそうに笑った。
「いいえ!それで、何人前?」
「そうね……。2人前お願いするわ」
「分かりました!」
○○はにこりと笑った。
「出来たら診療所までお願い!」
「かしこまりました!」
看護婦はにっこりと笑うと、診療所へと立ち去った。
酒場へ行くと誰もいないが、調理に取りかかった。
料理を作っている時は集中する事が出来、嫌な事も考えなくて済んだ。
そして、2人前の弁当が出来上がると、それを持って診療所へと向かった。
「失礼します」
診療所は深夜にも関わらず、仄かに明かりがついていた。
「ありがとう。こっちよ」
看護婦に案内され、横たわる兵士達を横目に一番奥の部屋に通された。
「し、失礼します」
入るとそこには……
「○○さん!!」
「え?あ、ナナミちゃん?!」
死んだとされているナナミの姿があった。
「○○さん、お弁当をありがとうございます」
ホウアンもいて、にっこりと笑った。
「あ、はい。これ」
○○がホウアンに弁当を渡す。
「さて、ナナミ殿。これで宜しいですか?」
そこにはシュウ軍師の姿もあった。
「うん!どうしても最後に○○さんに会いたくて……」
ナナミは嬉しそうに笑った。
「ナナミちゃん……どうして……」
○○はナナミを見た。
「うん、私ね、もうU主とジョウイが戦うの見るの……辛くて……」
ナナミは涙を浮かべた。
「……ナナミ殿はこれまでよくU主様を支えてくださいました」
シュウは珍しくにこりと微笑んだ。
「シュウさん……」
ナナミはシュウを見上げて泣いた。
「こんなお姉ちゃんでもU主の役に立てたのかな?」
ナナミが辛そうに顔を歪めた。
「大丈夫……ナナミちゃん、頑張ったから」
○○はナナミを抱き締めた。
「○○さん……」
ナナミは○○を強く抱き返した。
「……ナナミちゃんはこれからどうするの?」
○○はナナミに聞いた。
「うん、とりあえずこの戦争が終わるまでキャロの村に帰ろうと思うの」
ナナミはそう頷いた。
「そっか……ねぇ、私も一緒に行こうか?」
「え?」
ナナミは○○の言葉に驚いて顔をあげた。
「戦闘には全く参加できないけど、一人だと嫌な事考えちゃうでしょ?だったら、誰かと一緒の方が」
○○はにこりと笑った。
「え……でも」
「それは良い考えだ」
ナナミの言葉をシュウが遮る。
「正直、ナナミ殿を一人で出すのは少し悩む所だ。ハイランド軍に捕まっても困る。それに○○がナナミ殿が生きているのを知っているのも正直困り者だ」
シュウは厳しく言った。
「私もそれは思います。知ってしまったから、どんなボロが出てしまうか……」
○○は苦笑した。
「え……でも良いの?」
ナナミは困った様に聞いた。
「ナナミちゃんは嫌?」
○○は苦笑した。
「ううん!○○さんがいてくれたら、私嬉しい!!」
ナナミはにっこりと笑った。
「じゃあ、少し時間を頂いても宜しいですか?」
○○はシュウに聞いた。
「闇に紛れて出たいので、早く頼む」
「分かりました」
○○は頷くと診療所を後にした。
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