ゆっくりとすれ違う
激戦を勝ち抜いて行くU主率いる同盟軍。
主戦力でもある元マチルダ騎士団赤騎士団長カミューも連日連夜アシタノを離れる事が多くなって来ていた。
その彼女である○○ともまともに会えない日も多々ある。
カミューが帰るのが夜中などは互いに遠慮しあい、昼間に帰る日でも○○が仕事中である事が多い。
よって、2人が一緒にいる時間は酒場と言う事が一番多くなっていた。
2人だけの時間とはほとんどなくなっていた。
それでも○○は姿が見えるだけで安心し、声が聞こえるだけで安らいだ。
この戦争さえ終わればまたゆっくりと一緒にいられるものだとそう信じていたのだ。
その日、○○は遅番で、真夜中に仕事が終わり、部屋に帰る所だった。
「そう言えば明日はカミューさん、遠征無いって言ってたなぁ」
○○は迷いながらも、どうしても会いたくなり、自分の部屋ではなくカミューの部屋を目指した。
薄暗い廊下を歩き、騎士や傭兵達が寝泊まりするフロアへ着いた。
カミューの部屋の前に立つが、中から光はなく、静まりかえっていた。
「ど、どうしよう……」
○○は今更こんな非常識な時間帯に恋人とは言え、部屋を訪れるのがはばかれた。
「ま、まぁ、ちょっとノックして、ダメなら帰ろう、うん!」
○○は思いきってドアをコンコンと二回叩いてみた。
「……」
やはり、反応はない。
○○は急に恥ずかしくなり、足早に自分の部屋へと帰って行った。
カーテン越しに見える太陽が、すでに朝の時間の終わりを告げようとしていた。
「あ……」
久し振りに寝過ごしてしまった事を悔いながら○○は朝の支度を始めた。
手早く着替え、洗顔、化粧を済ませると外へ出た。
もう、外には人が溢れていたので、簡単な運動だけする事にした。
と、とても綺麗な女性が近付いて来た。
「こんにちは」
女性は○○ににっこりと笑った。
「え?あ、こんにちは」
○○は女性に挨拶を返す。
少し化粧が濃いが、プロポーションは抜群の大人の色香漂う美女だ。
「昨日はごめんなさいね」
「え?」
女性はにっこりと笑った。○○は意味が分からず聞き返す。
こんな美人に何かあったら、忘れるわけがないと思ったのだ。
「昨日の夜、会いに来てくたでしょ?カミューに」
にっこりと笑顔を崩さないまま女性はそう、言った。
「カミューったら、「出なくて良い」って離してくれなかったから」
「…………」
あまりにも当たり前に衝撃的な事を言うので○○はただ、黙るしかなかった。
「カミューも貴女に会えなくて寂しがっていたわ。また、会いに行ってあげてね」
そう言うと、女性は○○に軽く会釈して、去って行った。
「……」
○○はしばらくその場で動けずにいた。
「…………おい」
クライブの目の前を○○がふらふらと歩いて行く。
いつもなら、挨拶くらいするのに、全く反応すらしないので、思わず声をかけた。
「……」
「……おい、落ちるぞ」
「っれ?クライブさん」
池に足を突っ込み兼ねない○○を見かねたクライブが、腕を掴んで止めた。
「あ……すみません。考え事をしていたものですから……」
自分が池にはまりそうになっているのに気付き、○○はやっとクライブに反応した。
「…………そうか」
「……」
○○はクライブに何も言わずにその場を後にした。
「○○、遅かったね。あんたが遅れるのなんて珍しいね」
酒場のレオナにそう言われても、○○は何も返さず、ひたすら料理を作っていた。
「……○○?今日はどうしたんだい?」
「あ、レオナさん。どうしたって?」
レオナの声に答えるので、少しホッとはしたが、やはり目に生気はない。
「いや、何かあったのかい?」
レオナは眉間にシワを寄せる。
「……いえ……」
○○は何かに耐えているようだ。
「溜めるのは良くないよ?」
レオナは心配そうに言う。
「いえ……大丈夫ですよ!」
○○は何とか笑って答えた。
「○○ー!カミューさん来たよー」
そう呼ばれ、○○の体はビクリと震えた。
「どうしたんだい?行っておいで」
レオナに促され、酒場のホールへ向かう。
「こんばんは、○○さん」
カミューはいつもと変わらない笑顔で笑った。
「……こんばんは……」
○○は張り付いた笑顔でカミューから視線を外した。
「……○○さん?」
カミューは不思議そうに○○を見た。
「あ、あの!カミューさん!」
○○は思いきって声を出す。
「はい?何でしょう」
カミューは真剣に聞いた。
「き、昨日の夜、何をしていましたか?」
○○は語尾を小さくしながらも、ちゃんと言葉にした。
「昨日の夜ですか?もしかして来てくれたのですか?」
カミューがそう聞くと○○は小さく頷いた。
「やはり!寝てしまって、ノックの音が聞こえたと思ったのですが、一回だったので聞き違いかと。ちゃんと起きれば良かったんですね。すみません」
カミューは申し訳なさそうに謝った。
「い、いえ!あの、お一人で……?」
「○○さん……誰かに何か言われました?」
カミューはおかしい○○の表情をじっと見ていた。
「い、いえ」
○○は何故か、昼間の女性の事を口にしなかった。
「……いえ、もちろん今は一人部屋を頂いているので、一人で寝てましたよ」
カミューは真剣にそう答えた。
「そ、そうですか」
○○は心の底から嬉しそうに笑った。
「すみません、夜中なのにノックしてしまって」
○○はいつもの調子で苦笑した。
「……いえ、いつでも遊びに来てくださって大丈夫ですよ」
カミューも○○の様子に心配しながらも、笑った。
「はい!ありがとうございます」
○○はやはり、何かの間違えか、彼女が嘘を言ったと思い、気にする事をやめた。
カミューを信じようと思ったのだ。
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