魅力とは
「と、言うことかあったのですよ」
「へぇ、あのマイクロトフさんが!」
カミューの話にニコニコと楽しそうに聞く○○。
仕事が終わり、夜も遅い時間だが、2人はよく○○の部屋でお喋りをした。
「ん、もう、こんな時間ですか。楽しい時間はとても早いですね」
カミューは残った紅茶を飲み干すと席を立つ。
「あ!」
「はい?」
思わず呼び止めるが、それ以上は言葉にならない。
「……いえ。おやすみなさい、カミューさん」
「では、おやすみなさい」
カミューはそっと○○に近付き口付けを贈ると静かに部屋を出て行った。
「……レオナさん……やっぱり男の人は魅力的な女の人が好きですよね」
次の日、暗い顔をした○○がレオナに皿を拭きながら聞いた。
「そりゃそうだろう。でもどうしたんだい?藪から棒に」
レオナは○○を訝しげに見た。
「……」
「ははーん、さてはあの彼氏が手出ししてこないのかい?」
「……」
レオナの艶やかな笑顔に○○は無言で頷いた。
○○とカミューが付き合い出して早数ヵ月。戦争自体もいよいよ佳境に入って来た。
その事もあるだろうが、2人はまだベッドを共にしていないのだ。
「まぁね、結婚するまでそう言う事をしてはいけないって地域もあるけど……。あの色男がそうには見えないけどねぇ」
レオナはキセルを吹かした。
「……ですよね……」
○○ははぁと溜め息をついた。
「○○から誘えば良いじゃないか」
「それかが出来たら悩んでません!」
「よう!……ってしけた面してんな」
入って来たのはビクトールとフリックのいつものメンバーだった。
「いらっしゃい」
「とりあえず酒を」
「あ、はーい」
カウンター越しに注文してきたビクトールに、○○が反応して酒をつぐ。
「どうぞ。……はぁ」
「おいおい、しけた顔してんな。そんな顔じゃせっかくの酒が不味くなるぜ?」
ビクトールは笑いながら○○の顔をじろじろ見た。
「び、ビクトールさんは、どんな女性に……その……魅力を感じますか?」
○○は少し照れた様に、だが、藁にもすがる様に尋ねた。
「あ?そりゃ、こんなんだな」
ビクトールは真剣な表情で手を上から下へ、ひょうたんのように動かした。
「……やっぱり……」
○○はずーんと、力なく項垂れた。
「いや、人それぞれだと思うぜ」
ビクトールを無視してフリックがフォローをした。
「そう、でしょうか?」
「ああ。人間大事なのは中身だ」
「そうですよね!」
フリックの言葉に勇気付けられる○○。
「でもよ、オデッサ美人だったよな」
ビクトールは静かな声で付け加えた。
「ふ、ふぇーー!」
「ビクトール!!」
泣き真似を始めた○○を見て、焦った様に声をあらげるフリック。
「何があったか、むしろ無かったかだいたい解ったが。あんま、気にする事ないと思うぜ」
ビクトールは笑いながら○○に笑う。
「そうだぞ、○○」
フリックも焦りながら慰める。
「決めた!私も鍛える!ダイエット!!」
○○は右手を握りしめて決意をした。
「は?」
「いや、あんま痩せるとさわり心地悪くなるぞ」
フリックの間抜けな声とビクトールの呆れた声が響く。
「よし!頑張るわ!」
「頑張りな!」
「はい!」
笑顔のレオナの声に真剣に頷いた。
次の日の朝早く、○○は動きやすい服装で外にいた。
「とりあえず、ランニングから始めるかなぁ」
○○は軽く走りながら城の周りを回る。
「朝早いと気持ち良い!あ、マイクロトフさん達の青騎士さんだ」
すでに青騎士達は朝の鍛練を始めていた。
「さすが……。てか、何時からやってるのかしら?」
○○少々呆れながら走り続けた。
「っと……も……ダメ」
何とか走り終わってゴロンと草の上に転がった。
はぁはぁと切れる息を整えようと空を見上げる。
空の青さと気持ちの良い風に自然と目を閉じる。
「………………オイ」
低い声に慌てて目を開けて起き上がる。
「っ!」
疲れた体は悲鳴を挙げた。
「………………何をしている」
続けて聞こえた同じ低い声に○○は振り返った。
「あぁ、クライブさん。おはようございます」
不機嫌なガンナー、クライブを見付けると、○○は座ったままで挨拶をした。
「………………」
クライブは腕組みをして、城壁にもたれ掛かったまま無言だ。
「……。あ、えっと、最近運動不足だったので、ランニングでもしようかと……」
クライブの無言の圧力に○○は質問にしどろもどろに答えた。
「………………」
クライブは興味を失ったのか、○○から目を反らせた。
(……クライブさんって、やっぱりちょっと怖い)
○○は少し戸惑いながらも、クライブを盗み見た。
「………………オイ」
「は、はい!!」
盗み見ていた○○はクライブの声に驚き返事をした。
「…ほぐさないと辛くなるぞ」
「へ?」
クライブは○○を睨むような目付きのまま言った。
「…………体」
「あ、そ、そうですね!ストレッチでもします!」
意外なクライブの台詞に驚きながらも、○○は素直に従った。
「っと、」
○○は座ったまま足を前に投げ出して、体を前に倒した。
「いたたたた」
固くなった体は痛みを伴い、思うように体が伸びない。
「………………チッ」
クライブは舌打ちをしてから、○○の後ろへ回った。
「え?」
○○が戸惑っているのを無視する形でクライブはゆっくり背中を押した。
「っつ!」
「息を止めるな」
「っ!は、はい!」
必死で呼吸を続けながら○○は体を伸ばした。
「ふぁー!クライブさん、ありがとうございました!」
○○は笑顔でクライブを見上げた。
「………………」
クライブはさっさと○○に背を向けて先程の城壁にもたれ掛かった。
「ははは……」
○○は困った様にクライブを見て笑った。
「で、では」
○○は戸惑いながらクライブにくるりと背を向けた。
「………………オイ」
「は、はひ!」
クライブの声に再び驚き、振り返る。
「……続けないと意味がないからな……」
クライブはそれだけ言うと目を瞑った。
「わ、わかりました」
○○は怯えながら頭を下げた。
そして、早朝トレーニングは一週間ほど続いた。
その間カミューは遠征に行っていた。
久しぶりに帰ってきたカミューは書類を確認しながら城を歩いていた。
「ねぇねぇ、聞いた?」
「なにを?」
リンネ係の女性2人が噂話を始めた。
「あのね!クライブさんいるじゃない?」
「うん!ちょっと怖そうだけど、カッコイイ人よね?」
「そう!そのクライブさん、最近付き合ってる人がいるらしいよ」
「へー!だれ?」
「酒場の……ほら!前に劇の前に歌った人!」
「失礼、レディ」
「「カミューさん!」」
噂話に花を咲かせていた女性2人にカミューが話しかけた。
「今の話少し詳しく聞かせていただけますか?」
カミューはにこりと完璧な笑顔を2人に向けた。
「あ、はい!私も聞いた話なのですが、朝早く2人きりで会ってるみたいですよ!」
「へぇ。なるほど、ありがとうございました」
カミューはにこりと笑うと長い足を動かして、去って行った。
次の日の朝早く、カミューは○○の部屋の前に来た。
昨日の噂話が気にはなっていたが、忙しく結局朝になってしまったのだ。
カミューがドアをノックしようと近付く。
ーーカチャリ
「おっと」
「え?カミューさん!」
思いもよらぬカミューの姿に○○は嬉しそうに声を出した。
「おはようございます、○○さん」
カミューはにこりと笑った。
「おはようございます!どうしたんですか?こんな早くに」
「○○さんこそ」
○○の質問にカミューは聞き返した。
噂では○○とクライブは早朝に会っているらしい。
「あ、それは……」
○○は照れながらカミューから視線を反らせた。
「……」
「……」
「……」
「あの……運動をしようと……」
カミューの笑顔に恥ずかしそうに答えた。
「私もご一緒しても?」
「え?」
カミューの台詞に驚き顔を上げる。
「何か不都合でも?」
カミューは一瞬鋭い目付きで○○を見る。
「い、いえ!まさか!カミューさんとご一緒できるなら、私からお願いしたいくらいです!」
○○は嬉しそうにカミューを見上げた。
「で、でも……」
「はい?」
「わ、私、足遅いですよ」
○○は恥ずかしそうに答えた。
「クスクス。大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」
「はい!」
○○はカミューの手を取ると嬉しそうに外への道を進んだ。
「はぁ、はぁ、今日も気持ちの良い空ですね!」
○○はこの一週間で話ながら走れる位になっていた。
「ですね。風も丁度良いですね」
カミューは座って話すのと同じ様に声を出す。
「毎日走っているのですか?」
「は、はい!まだ一週間、ですけど」
カミューの質問ににっこりと答える。
「一人で?」
「はい!」
カミューは少し安心した様に微笑んだ。
○○は毎日一人で走っている。その言葉だけで安心出来た。
が
「あ!クライブさん!おはようございます」
○○はいつもの場所にクライブを見付けると嬉しそうに挨拶をした。
「これはクライブ殿、おはようございます」
カミューは少々警戒しながらもクライブへ笑顔を向けた。
「………………ああ」
クライブはちらりとカミューにも視線を動かしたが、すぐに○○を見た。
「ちゃんと毎日続けてますよ!」
「………………ああ、知ってる」
○○はにこにことクライブに話しかける。
「運動しても、体も痛くならなくなりましたよ!」
「………………そうか」
「はい!クライブさんのお陰です!ありがとうございます」
「………………ああ」
○○はにこにことクライブに話しかけ、クライブは怖い顔をしながらも、きちんと返事をした。
「……○○さん?」
カミューは少し戸惑いながら○○に声をかける。
「あぁ、この一週間、クライブさんにはとてもお世話になったんです」
○○はカミューを見上げた。
「例えば?」
「例えば、ですか?ストレッチを手伝ってもらいました。私、体が固いので、押してもらったりしたんですよ」
○○は恥ずかしそうに笑った。
「……」
カミューは眉根を寄せて、不機嫌な顔を作ったが、○○の気付かない程度である。
「…………俺は行く」
そう呟くとクライブは城壁から離れた。
「あ、はい!」
○○はにこりと手を振った。
「……」
カミューの隣に立つと歩みを止めた。
「心配なら首輪でもしとけ」
クライブは静かにカミューにだけ聞こえる声で呟く。
ハッとしたカミューはクライブを見ると、クライブは口許だけを歪ませた。
そして、スタスタと城の方へと歩いて行った。
「……」
「何を話したんですか?」
○○は不思議そうにカミューを見上げた。
「……いえ」
カミューはクライブの背から○○に視線を戻した。
「ところで、○○さん。何故急に運動を?」
カミューはクライブの事を振り払う様に○○へ質問をした。
「え、あ、の」
○○は顔を真っ赤にしてカミューから視線を地面にして、うつ向いた。
「……?」
カミューは不思議そうに○○の伏せられた頭を見下ろした。
「…………か、カミューさんが……い、いえ、私が……」
○○が意を決して声を出す。
「み、魅力的になりたい……と」
○○は茹で蛸の様になり、声も小さくなる。
「○○さんは十分魅力的だと思いますが?」
「……」
カミューの声に○○は切なそうに顔を上げた。
(……なるほど……俺のせいか)
カミューは○○の顔を見て、理解した。
カミューは周りに人気が無いことを確認した。
「○○さん」
「はい」
カミューの真剣な声に○○は返事をした。
「今夜部屋に泊まりに行っても宜しいですか?」
カミューは柔らかい笑顔を○○に向けた。
「へ?」
○○は収まりかけた熱がまた上昇したのは感じた。
「本当は、この戦いが終わるまで我慢するつもりでしたが……」
カミューは困った様に笑った。
「そんな顔をされると、正直俺もたまりません」
「ーっ!」
カミューは真っ赤な顔の○○の手を取った。
「本当は怖いのですよ。貴女に溺れててまいそうで」
カミューは切なそうな顔をすると○○の手の甲に口付けを落とした。
「……カミューさん。……ごめんなさい、私……わがままを……」
○○は泣きそうな声で謝る。
「謝らないで下さい。俺も男ですので、好きな女性に求められるのは嬉しいです。それに」
カミューが真剣な顔をして、城の方へとちらりと視線を送る。
「それに?」
○○は不思議そうにカミューを見上げた。
「……貴女を他の男に取られたくありません」
カミューは○○の顔をじっと見つめた。
「わ、私にはカミューさんしかいません!」
○○は真っ赤になりながらも、力強く答えた。
「それは安心しました」
カミューは驚きながらも、にっこりと微笑んだ。
「さて、では私はそろそろ仕事に向かいます。今日は仕事を早く終わらせなくては」
カミューはにっこりと笑った。
「はい。私も頑張ります」
○○もにっこりと笑った。
2人は揃って城へ向かった。
○○は自室でストレッチをしていた。
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