後悔しない選択
「あの、もう少し……良いですか?」
カミューとの食事の後、○○は勇気を振り絞った。
「……えぇ」
カミューは少し考える様にしてから頷いた。
「あの、じゃあ、少し歩きましょう」
○○はにこりと笑うと歩き出した。
2人は人の少ない湖の畔を歩く。
「初めてカミューさんを見た時はこんな風に2人で散歩する日がくるなんて思いもしませんでした」
○○は少し懐かしむように湖を見ながら話始めた。
「私、初めてカミューさんと話をしたのは大晦日の時なんです」
○○はカミューを振り返った。
「カミューさんは覚えて無いと思いますが」
「……すみません」
「いえ」
カミューは申し訳なさそうに謝るのをクスリと笑った。
「あの時私は流れ星にお願いしたんです」
○○は手を合わせてお願いをするポーズを取る。
「カミューさんと話が出来ますようにって」
空を見上げた○○はカミューに視線を戻す。
「願いは叶いました」
「……」
カミューは黙って○○の話を聞く。
「私、カミューさんと沢山お話が出来る様になって本当に幸せです!カミューさんと挨拶が出来る様になって幸せ、です」
○○は体ごとカミューに向き直り、正面から向き合った。
「日に日に、カミューさんへの思いがドンドン大きくなってしまって、しまっておくのも大変になっちゃいました」
○○は照れながらもカミューから目を反らさないでいた。
「ある人に言われました。この戦争が終わったらまた皆元の所に戻って二度と会う事も無いって」
○○は少しつらそうな顔をした。
「この前助けていただいた時に言ったんですが、うやむやになっちゃいまして……、カミューさんはそれの方が良いと思ったのですが。私が、ダメでもやっぱりちゃんと聞きたくて……」
○○は先程買ったラッピングして貰った包みを取り出した。
「カミューさん、私は貴方の事が好きです。もし、良かったらこれ、貰ってください」
○○はプレゼントをカミューに差し出しながらハッキリとした口調で言った。
「……これは、○○さんが大切な人への贈り物だと」
「はい!だから、カミューさんへの」
○○は頭を下げ、震える手でプレゼントを掲げた。
「……『今は騎士として成功を納めたいのです。だから、今はあなたの気持ちに答えられません』」
カミューの声を聞きながら○○はゆっくり手を下げた。
「……あ」
「と、女性に告白されるたびに言ってきました」
「え?」
カミューの言葉に○○は驚いて顔をあげた。
「正直、騎士になってからは恋愛よりも騎士としての自分が大切だったので、そう断って来ました。でも……」
カミューは一歩○○に近付いた。
「でも……貴女にも同じ事を言ってしまったらきっと私は後悔をする……」
カミューはまた一歩○○に近付いた。
「戦争が終わったら自分から言おうと思っていたのですが……無理そうです」
カミューはそっと○○の手からプレゼントを受け取った。
「私も○○さんが好きです」
カミューはにこりと優しく微笑んだ。
「あ……」
「戦争が終わるまで気持ちを押さえる事が出来ず、今は騎士ですらない私ですが、○○さんを想う気持ちは誰にも負けないつもりです。こんな私で良ければ付き合っていただけますか?」
「……」
カミューの思いもよらない言葉に○○の瞳から涙がこぼれた。
「……お返事はいただけませんか?」
カミューはにこりと優しく笑いながら○○の涙を指で拭った。
「は、はい!こ、こんな私で良ければ!宜しくお願いします」
○○は顔を真っ赤にして頭を下げた。
「はい。こちらこそ宜しくお願いいたします」
カミューは嬉しそうに頷いた。
「ところで、これ、開けても良いですか?」
カミューは手に持った包みを指差した。
「あ、はい!もちろん」
○○はにこりと笑った。
「では、こちらへ」
カミューは近くにある大きな岩に○○をエスコートして、隣り合って座った。
「では」
カミューは丁寧に包みを剥がしていく。
「これは……」
「はい!さっきカミューさんが気に入ってたカップなんです」
○○はカミューの手の中のカップを見た。
「何を贈ったら喜ばれるのか分からなくて……。なら、カミューさんが気に入っていた物が良いと思いまして」
「ありがとうございます」
カミューはにこりと○○を見た。
「とても嬉しいです。そうだ、このカップは○○さんの部屋に置いてくれませんか?」
カミューはにこりと提案する。
「……気に入りませんでしたか?」
「とんでもない、逆です。とても気に入ったので、お気に入りのカップで好きな人がいれてくれる紅茶を飲みたいからです」
カミューはいたずらっぽく笑った。
「わ、私の部屋でですか?」
「はい、○○さんの部屋でです」
真っ赤な○○にカミューは間髪入れずに答える。
「わ、わかりました」
「では、帰ったらさっそくお願いいたします」
「任せてください!」
○○はにこりと笑うと胸を叩いた。
「では、夜にならない内に帰りしょうか」
カミューはそっと手を差し出した。
「はい」
○○はカミューの手を取る。
そして、カミューは○○の手を強く握った。
「っ!」
カミューにエスコートされた事はこれまでに何度かあるが、ちゃんと手を握られた事は無かった。
「大丈夫、戦闘になったらちゃんと離しますよ」
カミューはいたずらっぽく笑うと、○○の手の甲に自らの唇を贈った。
「は……い」
○○は嬉しそうに微笑むしか出来なかった。
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