お誘い
「……私……カミューさんに告白しちゃった……けど」
○○はカミューを思い出しながら呟いた。
「カミューさんには……流されちゃった……かな」
○○はまた泣きそうになった自分を叱咤した。
「こんなんじゃダメ!せっかく言えたのなら頑張らなきゃ!」
○○は意を決して自室を出た。
「あ!カミューさん!こんにちは」
○○はカミューを見付けると嬉しそうに近付いた。
「これは○○さん。こんにちは」
カミューは立ち止まるとにこりと笑った。
「あ、あの!これからお時間ありますか?」
○○は照れながらもきちんと声を出した。
「すみません。ちょっと外せない会議がありまして……」
申し訳なさそうにカミューは断りの言葉を口にした。
「あ、そうですか!」
「何かありましたか?」
「いえ!大した用はなかったので」
「そうですか。では、またの機会に」
「はい!では失礼します」
あっさりと振られてしまった○○は残念そうに酒場へと帰る。
次の日
「あ、カミューさん!おはようございます」
「おはようございます、○○さん」
「……遠征ですか?」
「ええ。一週間程の予定です。何かありましたか?」
「そう……ですか。いえ!気を付けて行って来てくださいね」
「はい、行って参ります」
一週間後
「あれ?カミューさん!こんばんは!お帰りなさい!」
「○○さん。こんばんは。只今帰りました」
「お疲れ様でした。……顔色が少し悪いですよ?」
「そうですか?昨日の夜が寝ずの番だったからでしょうか?」
「それなら早く寝てください」
「?何か用があったのでは無いですか?」
「いいえ!大した用ではないですから!」
「そうですか。では、お休みなさい」
「お休みなさい」
そして
「カミューさん!こんにちは」
「これは○○さんこんにちは」
「あ、あの!前にエミリアさんから頂いたランチの招待券があって……明日までなんですが。ご一緒にいかがですか?」
「……」
「……」
「……すみません。明日は……」
「っ!いえ!私こそ……ごめんなさい!」
「○○さん!」
酒場では夕食時の激混み時間が終わり、酒を飲んで盛り上がるテーブルが増えた。
「はぁ……」
○○は落ち込んでいた。
「○○、どうしたんだい?不景気そうな顔をして」
酒場の女店主のレオナは不思議そうに○○を見た。
「……レオナさん……」
○○は泣きそうな顔をしていた。
「な、どうしたんだい?」
「やっぱり0勝4敗はもう望みは無いですか?」
「は?」
○○はレオナに相手は伏せて、告白した事、流された事、誘いを断られた事を話した。
「あぁ……そう言う事かい」
レオナはフーーッとキセルを吹かした。
「正直、私もこの年になってからこんなに迷うとは思いませんでした」
○○は落ち込んだようにぽそぽそと話した。
「ふふ。恋愛なんてそんなものじゃないかい?いくつになってもね」
レオナはクスクスと笑った。
「そんなものでしょうか?」
○○は困った様にレオナを見上げた。
「お前さん、今まで付き合った事くらいあるだろう?」
レオナはふと気になる事を聞く。
「もちろんです。でも……」
「でも?」
「……自分から好きになった事……初めてで……」
○○は恥ずかしそうに呟いた。
「なるほど……ね」
レオナは納得した様に頷いた。
「まぁ、答えが欲しいならちゃんとそう言うしかないよ」
レオナはキセルを吹かす。
「ちゃんと……」
「あぁ。それに誰だかは知らないけどビクトールやフリックみたいな傭兵達はこの戦争が終わったらまた次の戦場へ。マチルダの騎士もまたマチルダに戻るし、他の奴等もみんなここを去って行くんだよ」
「っ!そっか……」
「二度と会う事も無い奴もいるさ。それでも良いのかい?まぁ、振られても……だけど」
「そう、ですね!ちゃんと言ってちゃんと振られてみます!」
レオナの言葉に○○は静かに決心をした。
そして次の日。
○○はビッキーの前でバレリアを待っていた。
「バレリアさん来ないね」
「おかしいなぁ……。時間にルーズな人じゃないのに」
○○は不思議そうにビッキーと話をしていた。
結局、ランチの招待券の店はクスクスにあるので、戦闘要員と行く事にした。
ちょうど時間があったバレリアと酒場で意気投合し、一緒に行く事になったのだが……。
「あれ?来たの?」
ビッキーは不思議そうに奥の方から現れた女を見つけた。しかし、2人いた。
「あんたはいつも!」
「うるさいわね!」
「バレリアさんと……アニタさん?」
○○は不思議そうに2人バレリアとアニタを見た。
「悪いね、○○。ちょっと譲れない戦いが出来てね」
バレリアはにっこりと○○に言った。
「○○ちゃん!今度私とデートしましょ!」
と、アニタはバレリアを連れて外に行ってしまった。
「……」
「……○○さん、テレポートどうする?」
ビッキーはあっけらかんと聞いてきた。
「どうしよう……。せっかく1日休み貰ったしなぁ。クスクス一人で行ってみようかな?」
○○は手持ちの札を確認した。
「あんまり戦闘した事ないけど…」
不安はあったが、せっかくの人気店のランチ招待券の魅了には勝てなかった。
「じゃあ、お願いする!」
「うん!分かった!あれ?」
ビッキーはチラリと○○の後ろを見た。
「こんにちは」
「カミューさん!」
少し額に汗をかいたカミューが笑顔で近付いて来た。
「カミューさんもテレポート?」
ビッキーがカミューを見上げた。
「ええ」
「あ、なら先にどうぞ」
○○はカミューに場所を譲ろうとしたが、肩に手を置かれて引き寄せられた。
「いえ、一緒なので。ビッキー殿お願いします」
「へ?」
「じゃあ、いっくよー!えい!」
なんとも言えない浮遊感と眩い光に包まれた。
○○はとっさに目をぎゅっと閉じた。
「大丈夫ですか?」
カミューの声に恐る恐る目を開けるとそこには街が広がっていた。
「うわぁ。本当に着きましたね」
○○は驚き、キョロキョロと見回した。
「ええ」
カミューはにこりと笑った。
「そ、それよりカミューさん、今日は用事があると言っていませんでしたか?」
○○は不安そうにカミューを見上げた。
「ええ。ですから今日は日の出前から起きてました」
カミューは爽やかに笑った。
「え?」
「せっかく○○さんにお誘い頂いたのですから。それくらい当然です。大丈夫。ちゃんと仕事は終わらせて来ました」
カミューは当たり前だと言うようにさらりと言った。
「そ、それは、私の為だと自惚れても良いのでしょうか?」
○○は少々大胆にそう聞いた。
「ええ。もちろん」
カミューはにこりと笑った。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。さて、まだランチには早いですね」
カミューは太陽がまだ上がりきっていない事を確認する。
「あ、バレリアさんとお買い物する予定でしたから」
○○は今日の予定は女2人での買い物だった事を思い出した。
「では、行きましょう」
「え?」
「買い物」
カミューはさも当然と言うように手を差し出して来た。
「え?」
「どうぞ?レディ」
カミューは誰もが見とれる笑顔を○○に向けた。
「はい!」
○○は照れながらもカミューの手を取った。
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