告白

天気は申し分ない晴れ。

お昼の激混み時間を過ぎて休憩に入った○○はお弁当を片手に歩いていた。
せっかくなので、外でのんびりと食べようとしていたのだ。


「どこで食べようかな」

○○がそう歩いていると

「あ、あの!○○さん」

後ろから声がしたので立ち止まって振り返った。
そこにいたのは傭兵風の男で、何度か挨拶を交わした程度の相手だった。

「こんにちは。何かご用意ですか?」

「す、少しお時間良いですか?」


にこりと聞き返す○○に男は顔を赤くして答える。

「?はい」

「あの、ここではなんなので……」

城の廊下は多くの人間が行き交う。今も立ち止まる2人を「なんだなんだ」とチラチラ見ている。

「はい」

男は○○を人気の無い裏庭へと連れ出した。





「……」

「……」

「……あ、あの……」

なかなか喋ろうとしない男に○○は不思議そうに声をかける。

「あの、○○さん」

「あ、はい」

男は意を決した様に口を開いた。

「俺は貴女の事が好きです!付き合ってください!」

男は○○に対して頭を下げた。

「あ……の、その、ご、ごめんなさい!」

○○は少し驚きながらも頭を下げる。

「……ダメ……ですか。何か俺に至らない事が?」

男は困った様に眉根をハの字にした。

「いえ!私……今好きな人がいますので」

「そうだったんですか」

「はい」

男は落ち込んだように顔を下げた。

「付き合ってるんですか?」

「いえ、片想いなんですが」

「……誰かは教えて貰えますか?」

「……ごめんなさい」

男の質問に今度は○○が困った様に頭を下げた。


「そう……ですか……」

男は頭をかいた。

「あの……私はこれで……」

○○は居たたまれなくなり、その場を離れようと踵を返した。

「まっ……!」

男は○○の腕を掴み、自分の方へ引き寄せる。



そして、唇を重ねた



「ーーっ!!」

○○は驚き、そして唇を手の甲で乱暴に拭いた。

「なっ何をするんですか?!」

○○は怒った様に男を睨み付けた。

「すみません……。お願いがあるんですが」

男は静かな声で言う。

「お願い?!」

○○は怒りを収めずに叫ぶ。

「はい。……抱かせてください」

「は?」

男は低い声で○○の拘束する手に力を入れた。

「何を言ってるんですか?」

「俺は本気です」

男は○○の耳元に唇を寄せた。

「俺は……俺達傭兵は戦場に出たらいつ死ぬか分からない存在です」

「っ!」

男の台詞に○○はぴくりと体を震わせると大人しくなる。

「だから、せめて貴女との思い出が欲しいです。貴女との思い出があれば戦場に出ても怖くない」

男は切なそうに声を絞り出した。

「今まで戦場に出るのは嫌じゃなかった。むしろ楽しかった。自分の腕を試せるし、手柄を挙げるのも嬉しかった。……でも貴女に出会ってしまった」

男は苦しそうに○○を抱きしめた。

「貴女に出会って、怖くなった。戦う事、そして、死ぬ事が……」

「……」

決して気を許した訳ではないが、○○は大人しく男の話を聞いていた。

「だから……一晩とは言わない。一度で良い。……貴女を抱きたい」

男は○○との距離を少しあけ、真剣な表情で見つめた。

「……」

○○は複雑な気持ちになっていた。

もちろん、好きでもない男に抱かれるのは嫌だ。
しかし、男はとても苦しそうに、切なそうに語りかけてくる。
男の言葉に嘘はない。
だからこそ、ここで拒否をして良いものか悩んでしまったのだ。



「……○○さん……良いですか?」

男はゆっくりと○○に顔を近付ける。
○○は自分の気持ちに整理のつかないまま、目をきつく閉じた。




「彼女から離れてもらおう」



静かな低音がすぐ近くで聞こえた。
○○は恐る恐る目を開けると、男の首もとにユーライアが突き付けられていた。

「なっ!カミュー殿には関係ない!」

男はカミューの押さえない殺気に気圧されながらも、叫んだ。

「……お前は自分が幸せに出来ない女性を抱いて嬉しいのか?」

いつもの雰囲気と違うカミューに○○は怯えながらも2人のやり取りを見つめた。

「なっ?!俺だって彼女を幸せに!」

「出来ないから想い出が欲しいのだろう」

カミューの静かな低音に男はとうとう○○から離れた。

「戦場で戦う者ならば、いつ死ぬか分からない事は確かだ。しかし、お前はそれを使い彼女の同情をかって、自分の欲望を満たそうとしたのだろう」

「っ!」

カミューは男と○○の間に入り込み、自らの背中に○○を隠した。

「彼女を幸せに出来ないのに、彼女を抱く権限はないだろう」

カミューは冷たく言い放つ。

「……」

「もし、お前が彼女を本気で好きならばここは引け。彼女を幸せに出来る自信があるなら再度口説けば良い。だがーー」

カミューはカチャリとユーライアを男に突き付ける。

「彼女をただ、抱きたいだけなら、俺が今相手をする」

カミューは真剣な表情で男を見つめた。

「………………」

男は何か言いたそうに○○を見たが、何も言わずに去って行った。

「……」

「……」

男の姿が完全に見えなくなって、数秒してからカミューはゆっくりとユーライアを鞘にしまった。

「……」

「……あ、あの……」

カミューの雰囲気が変わらず冷たいままで、○○は怯えながら声を絞り出した。

「○○さん、嫌なら嫌とはっきり言わないでどうします」

カミューは○○に背を向けたまま話しかける。

「す、すみません」

「私が通りかからなかったら謝るだけじゃ済まなかったのですよ!」

カミューは語尾が強くなっていた。

「……」

「貴女が心優しいのは分かります。でも、これは貴女にリスクが大き過ぎる。貴女は愛してもいない男の子供を産めるのですか?」

カミューはゆっくりと○○の方を向く。
怒りと言うより、苦しそうに見えた。

「貴女はあの男の子供も身籠り、一人で悪阻に耐え、出産の苦しみに耐えられるのですか?!産まれてからも子育ては大変なんですよ。それに……」

「……」

「それに、子供が自分の母が父親を愛していなかったと分かったらどうするのですか」

「あ……」

カミューはゆっくり諭すような口調になっていく。

「それは……考えていませんでした」

○○は今にも泣き出しそうな顔をした。

「……それに、一度好きでもない男に抱かれて、他のまた好きでもない男が言い寄ってきたらどうするのですか?」

「……」

カミューの言葉は厳しく○○の胸に突き刺さった。

「……もし、私が貴女を好きだと言ったら抱かれるのですか?」

「え?」

カミューの台詞に驚いて、下げていた顔をあげた。

「……○○さん」

カミューの冷たい顔が○○に近付いてくる。
肩を抱かれ、ドキドキと胸は高鳴るがーー


「ご、ごめんなさい!」

○○は泣きながら両手でカミューの口を押さえた。

「私はカミューさんが好きです!でも、そんな冷たい……感情もないカミューさんに抱かれても嬉しくないです!」

○○はポロポロと涙を拭きもせずカミューに訴えた。

「っ!はい、そうですね」

カミューは○○の台詞に驚いたが、○○の手を取りながら柔らかな笑顔で頷いた。

「すみません。怖がらせる気はなかったのですが」

○○はポロポロと泣きながらその場に座り込んだ。

「怖かった……。なんだか、拒否して良いのかドンドン分からなくなって……。カミューさんが助けに来てくれなかったら……」

○○はそう言いながらカミューを見上げた。

「カミューさん、ありがとうございます」

「いえ、貴女が無事で良かった」

カミューは優しく笑うと○○を抱きしめた。

「か、カミューさん!」

「少し、このままで」

カミューは力強く○○を抱きしめた。

「……○○さん、私もです」

「え?」

カミューはゆっくりと○○から離れた。

「もし、今のように困った事があったらすぐに私の名を呼んでください。必ず助けに行きます」

カミューはにこりとイタズラっぽく笑った。

「え?あ、はい。宜しくお願いします」

カミューは○○を立ち上がらせる。

「さて、私はそろそろ行きます。マイクロトフにどやされてしまいますので」

「あ、はい!本当にありがとうございました」

○○はペコリと頭を下げた。

「はい、では」

カミューはいつもの雰囲気に戻り、爽やかな笑顔で去って行った。

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