演劇本番!

早いものであの図書館での出来事から数ヶ月が過ぎていた。

役者が主戦力なので、なかなか思うように進まなかった準備期間も終了した。


そして、いよいよ劇の本番当日である。




「まだチケットをお求めでない方はこちらでお願いします」

例のメイト服に身を包んだ○○が案内係りをしていた。

「おっ!誰かと思ったら○○じゃないか!」

「タイ・ホーさん!あ、ヤム・クーさんも!」

「○○さん、こんばんは」

着流し姿のタイ・ホーとヤム・クーも劇場へやって来た。

「ここでチケット買うのかい?」

「はい!中はワンドリンク制でおつまみも用意してますよ」

「ほー、なるほどね。お嬢ちゃん達がお酌してくれんのかい?」

「兄貴……」

「残念ですが、手酌でお願いします」

「そいつは残念だ!どうだい?チンチロリンでもやらないかい?」

「今度伺いますね」

○○はニコニコとタイ・ホーとヤム・クーにチケットを渡し金を受け取った。



「○○さん!大変!」

「エミリアさん?」

そろそろ会場が満員になり始めた時、エミリアがチケット売り場に来た。

エミリアの話では、ヒロイン役のアンネリーが居なくなったと言う事だ。


「あの子、緊張してたものね……。トイレかしら?」

エミリアは困った顔をした。

「開演時間まで、もうすぐ……お客さんも満員……。ちょっと待っててください!」

○○は走って行った。




「はぁはぁ、どうですか?見つかりましたか?!」

○○は急いでぶたいそでまでやって来た。

「それがまだ……今探してるわ」

エミリアはオロオロと眼鏡をかけ直した。

「とりあえず、カミューさんとフリックさんはすぐ始められる様に待機していてください!」

「わかりました」

「あぁ」

着替えも終わって完璧なカミューとフリックは頷いた。

「これから一度、会場の灯りを消してください。私が合図をしたら、つけてください」

「えぇ、解ったわでも?どうするの?」

「こうするんです」

不安そうなエミリアに○○はイタズラっぽくギターをかかげた。




「まだ始まらねーのか?!」

「早くしろー!」

客達は今か今かと待っていた。


と、突然会場の灯りが消えた。


「なんだ?なんだ?」

「どうした?!」



ざわざわと騒がしくなった会場にギターの音が流れ出す。

「歌?」

そして、歌う声が響いた。


パッとステージに灯りが付き、○○がギターの弾き語りを始めた。




曲が終わる頃には皆が曲に聞き入っていた。

「今日はお越しいただいて、どうもありがとうございます!」

○○は客からの拍手に迎えられながら喋りだした。

「この戦いが終わったらギターを抱えて気ままな旅に出ようと考えている○○です!」

「よっ!○○!!」

「皆さんが集まる劇場前の前座として、何曲か歌う事を許していただきました!お付き合いください!」

「頑張れよー」

「ありがとうございます!そして、ワンドリンク制と言いましたが、今日はU主様の計らいで、皆さん存分にお飲みください!」

「おぉ!」

「あっ!でも、飲み過ぎはダメですよ!それでは皆さん!お付き合いください!」

○○はまた歌い始めた。





「良かった!これで何とか繋げたわね!」

エミリアはホッと安心した。

「私も探しに行って来るから2人は待ってて!」

エミリアはそう言うと走って行った。

「しかし、○○の奴やるな」

フリックは感心しながら舞台そでから舞台を見ていた。

「えぇ。持って行き方も上手いですし、きっとレオナさんとU主様にも言って、お酒も用意したんでしょうね」

カミューも感心しながら○○を見た。

生き生きと楽しそうにギターを弾いて歌っている。会場の人達も一緒に楽しそうだった。





「ごめんなさい!お待たせしました!」

ヒロイン役のアンネリーも到着して、ステージでは、○○の後ろでカーテンが閉められ、舞台の用意がされた。
そして、○○の曲も静かに終わって行った。


「ここまで聞いてくださってありがとうございました!!それではお待ちかねの劇の本番です!どうぞ、皆さまお楽しみ下さい!」

○○がスカートの裾を持ち上げ、お辞儀をすると、会場が再び暗くなる。その隙に舞台そでに引き上げた。

そして、劇が始まる。



舞台の方からは黄色い歓声が上がった。フリックが登場したようだ。

「○○さん!お疲れ様!ありがとう!」

エミリアは○○を抱き締めた。と、○○の体は力をなくし、崩れ落ちる。

「○○さん!」

「はぁはぁ、良かった……」

○○は震えながら床に座り込んだ。

「お疲れ様でした○○さん」

カミューが近付き、そっと抱き起こす。

「カミューさん」

「あなたの別の一面が見れて、楽しかったですよ」

にっこりとカミューは笑った。

「もう、ギターなんてもう何年も触ってなかったから、ドキドキしました。結構間違えちゃったけど、ごまかせて良かったです」

○○は興奮冷めやらぬなかで、喋った。

「さて、では今度は見ていてください」

カミューは笑顔でそう言うと、出番である舞台へと颯爽と歩いて行った。


客席からは黄色い悲鳴が聞こえていた。









「お疲れ様でした!」

○○は劇に関わった人一人一人にお酌をして回っていた。

「あぁ、お疲れ」

フリックはくしゃくしゃと髪の毛をかき回していた。まだ、ワックスが残っているようだ。

「はい!主役への功労賞です」

○○は新しいグラスをフリックに渡し、それに酒をそそいだ。

「おっ!カナカンの酒か?サンキュっと」

フリックは機嫌良さそうに酒を飲み干した。

「とても素敵な劇でしたよ!私なんて、台本で知ってるのに泣いちゃいました」

○○は少し赤い目を指差した。

「はは、そりゃ、良かったよ」

「ニナちゃんなんか号泣でした」

「……そうか」

フリックは苦笑をした。

「まぁ、何にせよ、成功して良かったよ」

「はい!大成功でした!」

○○は再びフリックのグラスに酒をそそいだ。






「お、カミューこんな所にいたのか」

「マイクロトフか」

マイクロトフが酒を持ち、打ち上げ会場の端っこにいたカミューに近付いた。

「さすがのお前でも疲れたか?」

マイクロトフは笑いながら酒をカミューに渡した。

「そうだな……」

「さっきから何を見てるんだ?」

カミューが一点から視線を動かさない事に気付き、不思議に思い、その場所を見た。

「あれは、フリック殿……と○○さんか」

マイクロトフは少し目を細める様にして人物を確認した。

「そうだな」

カミューは無表情のまま答える。

「お前……」

マイクロトフはカミューを不思議そうに見る。

「……さっきから、無防備過ぎなんだ」

カミューはぼそりと呟く。

「は?」

「今日は短いのを履いているのに……」

カミューの顔は無表情のままだ。

「……」

「あの、後ろにいる奴なんか、ずっと見てるんだ」

「カミュー……」

「ほら、あいつも」

「お前……酔ってるのか?」

マイクロトフは少し呆れ気味でカミューを見た。

「あるいは……」

カミューはマイクロトフを見てニヤリと妖艶の笑みを浮かべた。

「お、おい」

マイクロトフは焦った声を出す。

「劇の興奮も冷めていないんだ。何かあって困るなら、彼女を今の俺に近付けない事だな」

カミューはさらりと言うと酒を飲み干した。

「なっ!!」

マイクロトフは慌てたように周りを見渡したが、遅かった。

「お疲れ様でした!カミューさん!マイクロトフさん!」

○○はニコニコとカミューとマイクロトフに近付いて来た。

「これは、○○さん。ご機嫌はいかがですか?」

カミューはこれまでの表情を一変させ、笑顔で答えた。

「はい!とても良い劇を見られたので、大満足です!」

○○は楽しそうに答えた。

「そう言えばそのギターはどうしたんですか?」

マイクロトフはカミューを警戒しつつ○○が背負ってるギターを指差した。

「あ!最初はアルバートさんに借りたんですが、あげると言われたので」

○○は照れたように言った。

「そうでしたか」

マイクロトフは納得したように頷いた。

「あ!これ、カナカンのお酒なんです。どうぞ」

○○はマイクロトフ、カミューの順に酒をそそいだ。

「きゃっ!」

「おっと」

「ごめんよ!」

○○に人がぶつかって来た。
○○はカミューにどんと、ぶつかった。

カミューが○○を支えたので、酒がカミューの腕にかかった。

「ごめんなさい!」

「いえ」

焦った○○をカミューはにこりと笑った。
カミューは酒のかかった腕を舐めた。

「ーーっ!!」

その姿が妖艶で、○○はカッと頬に熱が集まった。

「カミュー!○○さん、他の人にも酌をするんですか?」

マイクロトフは慌てて早口で捲し立てた。

「っ!あ、はい!では!また!」

○○も真っ赤になったまま走り去った。

「おや、マイクロトフ。邪魔してくれたな」

カミューはニヤニヤと走り去った○○を見ながら酒を煽った。

「はぁ、お前、○○さんを傷付ける気か?!」

マイクロトフは少し怒った様に言った。

「まさか!彼女を泣かす奴はユーライアの錆にしてくれる」

「……」

笑っているが、真剣なカミューの目を見たマイクロトフは冷や汗を流した。








***





何だか凄く長くなってしまった演劇編終了でございます!

本当は前後編か、前中後編くらいの予定でしたが、結局7つになってしまいました。

もちろん、元ネタは幻想水滸伝Vのあれです。ジョー軍曹カッコイイですよね。


コメントいただけましたら、泣いて喜びます♪

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