演劇準備!
着々と演劇をする準備が進められていた。
ヒロインもU主やナナミ、エミリアが厳選そしてオーディションで決めたらしい。
酒場も、当日の飲み物やおつまみ。そして、打ち上げもやる事になっている。
「おーい、悪いだが、出前頼めるか?」
酒場に入っていきなりビクトールがそう酒場の主人であるレオナに聞いた。
「一体なんだい?」
レオナは突然のビクトールの言葉に少し呆れていた。
「ちょっとな。酒と、つまみを少しで良いんだ」
ビクトールはレオナに手を合わせた。
「全く……仕方無いね。誰か持って行ってやんな」
レオナは従業員達に声をかける。
「私、忙しい!」
「パス!」
「私も!」
次々断る女性達。
「冷てーな!」
ビクトールは苦笑しながら頭をかいた。
「あ!なら私が行くよ」
様子を見ていた○○が手を挙げた。
「おっ!さすが○○!」
ビクトールは嬉しそうに○○を見た。
「はいよ、じゃあこれで足りるかい?」
レオナがカウンターに酒とつまみを並べた。
「よしよし!じゃあ、○○はつまみを運んでくれ」
ビクトールは酒を両手に持つと、○○につまみの入った皿を持たせた。
「はーい!じゃあ、行って来ます!」
○○はビクトールの後を追った。
「○○。きっとビクトールは出前なんて言い訳だよ。行って来な」
レオナの言葉にビクリと肩を震わせるビクトール。チラリとレオナを振り返るとレオナはニヤリと笑った。
「え?」
「悪い!借りるぞ!」
「ええ?!」
「「「頑張ってー」」」
「ええぇ?!」
酒場にいた人間が皆笑顔で○○を送さ出した。
○○以外、ビクトールが厄介事を持って来たと感付いたのだ。
「で?どうしたんですか?」
○○は不安そうにビクトールを見上げた。
「いや、なに、ちょっと女の意見を聞きたいんだと」
「意見?」
「あぁ、っと、ここだ」
普段は空き部屋とされている部屋に入った。
「入るぞー」
「もう、入ってるじゃない!」
ビクトールの行動にナナミがツッコミを入れた。
「まぁ、良いじゃねーか。どうだ?○○連れてきたぞ」
「ナイス!ビクトールさん!○○さん入って!」
ナナミに促されて部屋に入った○○。
「あのねー、悩んでるの!」
「おー、酒来たか。喉が乾いた」
「?」
ナナミの後ろから、青年が1人出てきた。
ビクトールから酒を受け取り、○○の持ってる皿からつまみを摘まんだ。
「あっはっはっ!○○の奴わかってないぞ!」
「え?」
「……はぁ……」
ビクトールと○○の反応を見て、青年はため息をついた。
「それ、フリック」
「え?」
○○は青年ーーフリックを見た。
「ええぇ?!」
「カッコイイでしょ!」
○○の驚いた顔にナナミはニヤニヤと笑った。
「うん!カッコイイ!!」
「……そりゃどうも」
「お、フリックの奴照れてるぞ!」
「うるさい!」
「フリックさん、可愛い」
「……はぁ」
ビクトールとナナミはニヤニヤと楽しそうに笑った。
「何?劇の衣装合わせ?」
○○はフリックの姿をまじまじと見た。
フリックはいつもの戦闘用の服とはかけ離れた、質素だが上品な服を来ている。頭にはトレードマークのバンダナも巻いてはいなかった。
「そうなの!エミリアさんは今女性の方に行ってるんだ!だから、私とビクトールさんが男性陣を担当してるんだけど、髪型が……」
ナナミはうーんとフリックを見上げた。
「もう……好きにしてくれ……」
フリックは諦めたように項垂れた。
「おや、○○さん」
「……」
カミューの声がして、振り返るとそこにはカミューがいた。
だが、その格好はフリックよりも豪奢で上品。見るからに貴族と言う出で立ちであった。
「○○さん!顔真っ赤!」
ナナミは嬉しそうに○○を見た。
「ーーっ!だ、ごめ、だっ!!」
「解る言葉で話せって!」
ビクトールも○○の様子を見てニヤニヤと笑った。
「どうでしょう?」
カミューが○○に服を見せ、おどけて見せた。
「か、と、とても、カッコイイ……です」
何とか○○はそう口を開いた。
「そう言っていただけると光栄です」
カミューはニッコリと笑った。
「フリックさん、反応が違うからってすねない!」
「すねてねーよ!」
ナナミはニヤニヤとフリックに言う。
「えー!つまんなーい!」
「なにがだ?!」
「怒んないでよ!ニナちゃん呼んじゃうよ?」
「……勘弁してくれ」
フリックは疲れた顔をした。
「……ナナミちゃん、あんまりいじめちゃダメ!」
「はーい!」
○○に素直に頷くナナミ。
「じゃあ、フリックさんからね。座って!」
ナナミが椅子をひくと素直にフリックは座った。
「この服に合う髪型にしたいのね?」
「うん!でも、なかなか決まらなくて……」
「これでも十分カッコイイと思うけど?」
「うーん、何か足りないのよね」
ナナミは難しい顔をしてフリックの髪をくしでとかす。
「そうね、ちょっと貸して。……痛かったら言ってくださいね」
「あぁ」
ナナミからくしを受け取ると、○○は軽くとかす。
「こう、真ん中分けとか」
「普通だよね」
「じゃあ、横?思いきって七三分けとか?」
「……笑いたいのにカッコイイ……なんか悔しい!」
「ナナミちゃん……」
ナナミの言葉に笑いながら○○はフリックの髪をいじる。
「あ!こう、こんな感じは?」
少し左側で分け、キッチリとした髪型にする。
「あっ!良いね!それにする!」
ナナミは嬉しそうにフリックに鏡を渡す。
「どう?!フリックさん!」
「あー、いいんじゃないか?」
フリックはやっと終わったと席を立った。
「あ!エミリアさんが来るまで脱いじゃダメよ!」
「……はいはい」
フリックはナナミの頭をぽんと叩くとビクトールがもってきた酒を手に取った。
「じゃあ、次!カミューさん!」
ナナミは嬉しそうにカミューをフリックが座っていた椅子に座らせた。
「宜しくお願いします」
「は、はい!」
カミューは座ると○○を見上げた。いつもは見上げるカミューに見上げられ、○○は照れながら軽くくしでとかす。
「痛かったら言ってくださいね」
「はい」
○○の言葉に素直に頷くと、カミューは前を向いた。
「とりあえず、真ん中分け」
「うーん、いまいち!」
「えーっと、やっぱり横分け?」
「カッコイイんだけどなあー」
ナナミはうーんと悩んだ。
「じゃあ、いっその事オールバック……」
○○はカミューの髪を全て後ろに流し、前から覗き込む。
「ーーっ!だ、ダメ!」
○○は慌ててカミューの髪を元に戻す。
「あーん!まだ見てない!」
ナナミはすねた様に○○に抗議する。
「変でしたか?」
カミューも不思議そうに○○を見上げた。
「だって……」
「だって?」
「あれは……反則です!」
○○が真っ赤になり、うつ向いた。
「えぇ!見たい見たい!」
ナナミは○○からくしを取ると、カミューの髪をオールバックにする。
「すごーい!カッコイイ!!これにしようよ!」
ナナミも興奮したようにぴょんぴょん跳ねた。
「それは、ありがとうございます」
カミューはにこりとナナミに笑いかけた。
「楽しそうだな」
「そうだな」
ビクトールとフリックは酒とつまみでのんびりしていた。
「どうかしら?」
「あ!エミリアさん!女性陣は終わったの?」
エミリアが部屋へ入って来た。
「えぇ。行って来たら?」
「行く!」
「お!じゃあ、俺も」
ナナミに続き、ビクトールも部屋から出て行った。
「あら!○○さん!こんにちは」
「こんにちは、エミリアさん」
「ねぇ、当日、チケット係やっていただける?」
「はい!もちろん、良いですよ!」
「で、これ着てくれる?」
「ん?」
エミリアから紙袋を受け取る。
「で、これ!」
「??」
さらにエミリアから紙を受け取る。
「こ!これは!」
「そう!今人気店のランチペア招待券!!」
「凄い!」
「じゃあ、これ着てみて!」
「はい!」
「あのカーテンの裏で大丈夫よ」
「行って来ます!」
○○は上機嫌でカーテンの裏へ行った。
先程まで、フリックとカミューが着替えていたスペースだ。
「あら!2人共良いじゃない!」
「どーも」
「ありがとうございます」
「これで女の子達はメロメロね」
エミリアはフリックとカミューを見て満足そうに頷いた。
「あ、あのーエミリアさん……」
カーテンの裏から○○の声がした。
「はい!なに?」
エミリアもカーテンの方へ消えた。
「あー、何でこんな事になったんだ……」
フリックは疲れた様に酒を煽った。
「何故ですかね」
カミューも苦笑しながら、酒を口にする。
「……やっぱり、あいつのせいか……」
「あいつ……」
「○○な」
カーテンの方へフリックは向く。
「……でも、結局はやるんですね」
カミューはクスクス笑った。
「あー、まぁな。人が良過ぎるのも、考えもんだ」
フリックはため息をついた。
「2人共!どうかしら?」
エミリアに引っ張られ、○○が出てきた。
「ど、どうでしょう?」
○○は恥ずかしそうにカミューとフリックを見た。
「「……」」
「ちょっ!2人とも黙っちゃいましたよ!やっぱりもっと若くて可愛い子がする格好じゃないですか?!」
○○は2人が何も言わないので、不安と恥ずかしさから早口で言った。
「そんな事ないわよ」
エミリアはニヤニヤとフリックとカミューを見た。
○○はメイド服を着ていた。しかし、砦や城にいるメイドが着ている服ではない。
色は黒だが、スカートは短めでニィハイソをはき、エプロンドレスは白でヒラヒラとしていてとても可愛らしい。ついでに、白のヒラヒラとしたベッドドレスもしていた。
「いや……似合ってるけど……」
フリックは上から下まで○○を見た。
「とても可愛らしいですよ」
カミューはにこりと○○を見た。
「あ、ありがとうございます」
○○は嬉しそうにカミューとフリックを見た。
「あら、うふふ」
エミリアは○○とカミューを見て、何か思い付いたのか、ニヤニヤとした。
「時にカミューさん、大切な事なんですけど」
エミリアはにこりとカミューを見た。
「はい、何でしょう」
カミューは真面目な顔をしてエミリアを見た。
「この服……」
と、言いながらエミリアは○○を後ろに向かせ、カミューに○○の背中を見せた。
「これで簡単に脱がせますから」
エミリアは笑顔で○○のメイド服のジッパーを下ろした。
「ぶーっ!」
「あら、フリックさん、意外に純情」
「な!何をやってんだよ!」
「大丈夫ですわ!○○さんシャツはチューブトップは着けてますし」
フリックは真っ赤になりながらエミリアに抗議するも、エミリアはしれっと返した。
「え」
「ん?」
「エミリアさんの、馬鹿ぁぁ!!」
○○は真っ赤になりながらそう叫ぶと、自分の服が入った紙袋を持って逃げる様に部屋を飛び出した。
「あーあ、俺知らないぞ」
フリックは○○の出て行った方を見た。
「あら、フリックさんだって背中見たじゃありませんが」
「不可抗力だ!」
エミリアのニヤニヤは止まらずだ。
「……エミリアさん、さすがに今のは……」
カミューはようやく口を開いた。
「クス、凝視していましたわね、カミューさん」
「……はぁ」
カミューの耳元でそう囁くエミリアにカミューはため息をついた。
「さあ!当日まで後少し!頑張りまさょうね!」
エミリアは1人大満足そうに手を叩いた。
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