語られる想い

第一印象なんてものは無かった

いつの間にか出会って

顔見知りになって

それが今までの当たり前だった




今まで、特に恋人と呼べる人がいなかった訳ではない。
ただ、騎士となってからは恋愛感情がどうしても邪魔になるので、気付かないふりをしていたのだ。


ただ、騎士となりたかったから



とは言え、女性との関係が無かったかと聞かれたら、そうではない。
それなりに言い寄られる事もあった。

それが、いつから変わったのか。


きっかけは……親友であるマイクロトフだろうか。
あいつがこの同盟軍に参加し始めた時の事だ。
このアシタノ城の医務室にいる看護婦に恋をしてから……。

事ある毎に報告してくる。

やれ彼女の笑顔が綺麗だとか

やれ彼女の声が素敵だとか

やれ彼女の名前が分かったとか


……思春期の少年のようだと思った。
だが、少し羨ましくも感じている自分もいた。


そして、あの日……



「おい!カミュー!!」

部屋のドアを壊さんばかりに入って来る親友は顔を真っ赤にして興奮しきっていた。

「一体どうしたんだ?マイクロトフ。鼻息が荒いぞ」

「お、お、俺は!」

「なんだ?落ち着いてから話せ」

仕方のないやつだと思いながらコップに水を入れ、渡した。

「す、すまん」

ごくりと、一息で飲み込み、ため息をした。

「今、プロポーズをしてきた!!」

「は?……例の看護婦さんにか?」

きっと間抜けた顔をして聞いた事だろう。

「そうだ!」

「……お前達付き合っていたのか?」

「いや……」

一体何を言っているのか?この男は。
確か彼女とは挨拶をする程度の関係だったはずだ。

「で?どうだった?」

危うく腰を浮かしかけたのを誤魔化す為に、椅子に深く座り直した。

「あぁ!OKを貰った!!」

マイクロトフの少年のような笑顔が眩しかった。

「そ、そうか。良かったな、おめでとう」

「ありがとう!カミュー!!」

「それで?式とかはいつ挙げるんだい?」

「いや、まずはこの戦いが終わってからだがな」

「……そうか」




この時のあいつが羨ましかったのが、自分の考えが変わった瞬間だったのだろう。





それから何日かしてから。
訓練を終えて1人でのんびりと帰って行った時だ。


「ーーー!」

何か叫ぶ様な声を聞いたのだ。
気になり、声をする方へ行くと女性が倒れていた。
よく見ると橋のような物が見られたが、どうやら壊れているらしい。そして、古い。

「うわぁぁぁ!!」

「だ、誰かーーー!!」

悲鳴は2人分。彼女の手は崩れた橋の下へあり、その先には少年が繋がれていた。


難なく助け、少年が走り去った後、女性は震えていた。

彼女は助けたにも関わらず、少年の手を離してしまいそうだったのが怖かったと言う。


なかなか面白い女性だ。


戦場では、いつも人が死ぬ。

もちろん、騎士である以上、軍人である以上、自分も人を殺す。


そんな中、彼女は少年を手放しそうになったのを悔やんでいた。


本当に面白い女性だ。


それから、彼女ーー○○を意識するようにたった。

まぁ、だからと言っても恋愛感情はもちろん無かった。




そう、なのに、何故あんな事を……




「では、笑顔で「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」と言ってください」




自分で提案しておいて………。

何回か、何回も言われる度にもっと言って欲しくなる。
マチルダ騎士団に入るためにロックアックスに来てから「行ってきます」も「ただいま」も家族の様に言う事も言われる事も無かった。


行く時に彼女がいない時は自分でも驚くほどショックに近い感情があった。
帰って来る時に彼女の声が聞こえないだけで、イラつく自分に驚いた。


しかし、彼女は特に自分にだけ挨拶をしている訳ではない。


「おかえりなさい!ナナミちゃん!U主様!」


「おかえりなさい!ビクトールさん!フリックさん!」


「いってらっしゃい!アイリちゃん!リイナちゃん!ボルガンくん!」

「いってらっしゃい!クライブさん!ルックくん!」



老若男女誰にでも言う。

それに何故か違和感を感じてしまうのだ。


きっと他の彼らにとっても彼女は酒場の従業員から『○○』に代わった事だろう。

実際、彼女に話し掛ける者は以前より増えた。


こんな事を考える事態おかしな事だ。





演劇をする事になり、台詞合わせの時が……。





『私は、フリックを信じてる!フリックが好きなの!』


『俺もだ。きっと○○を幸せにする』


劇の台詞だと分かりきっているのに、心が暗くなる。
それにフリックが彼女の肩に手を置いた。そして、ビクリと反応したのが、俺に嫌な感情を産み出させた。


あの後は自分でも幼い子供の様だと思うよ。


彼女が台本通りではなく、顔を真っ赤にした事で俺の心は晴れた。


エミリアさんが用意した新しい台本にはさすがに驚かされたが。



『愛はない。』



あの1文に俺は反発していた。



そして、いつの間にか認めてしまいそうな自分がいた。




第一印象なんてものは無かった

いつの間にか出会って



そして、いつしか彼女の笑顔が見たいと思うようになった



彼女の笑顔を守りたいと思うようになったんだ





ただ、それは1人の男としてではなく




1人の騎士として



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