「はあ?なんで幸村がそんなこと言うわけー?」
「そうよ、あんたは部外者。引っ込んどきな」
「部外者じゃないと解決できない問題だってある。確かに広瀬さんは佐々木さんのラブレターを持っていた。けれど盗んだとは限らない」
「……何が言いたい?」
「佐々木さんへのラブレターが広瀬さんの下駄箱に入っていた、って可能性もあると俺は思うよ」
「入れ間違いとかありえないよー!まことの下駄箱は佐々木さんの真正面だし!」
「入れ間違いじゃなく、広瀬さんを陥れるために誰かが仕組んだのかもしれない」
「ふーん、証拠は?」
「ないよ」
「話になんないわね」
「じゃあ広瀬さんが佐々木さんの下駄箱の中を探った証拠はどうなんだい?」
「!」
「どちらの証拠もないなら、今回は広瀬さんを見逃してくれないかな」
「……そうね、分かったわ。ただし証拠が出てきた時点でこちらがまことを罰する」
「ああ、構わないよ」
これでなんとか、丸く収まったかな。広瀬さんは佐々木さんの下駄箱を覗き見るなんて行動は起こさないだろう。このラブレター事件には、主犯がいる。
交渉術に成功し、また少し教室が騒がしくなった。広瀬さんと俺なんてもう眼中にないらしい。先程まで人を殺せるような鋭い視線を浴びせていた生徒は、今個人の会話で花を咲かせている。ゆっくりと振り返り広瀬さんを見ると、呆然と口を開けて俺を見ていた。俺がいない間に、一体広瀬さんの身に何が起きたのか。俺について誰に何を吹き込まれたのか。知って解決させないといけない。
俺は広瀬さんの手を引いて、教室から逃げ出した。このシチュエーション、前にもあったな。確か佐々木が昼食を誘いに来たときだ。あの時は美術室に行って、二人で穏やかな昼食をとった。授業で使用されないここは、なんだか俺と広瀬さんの隠れ家のよう。広瀬さんが好むあの閑静な一室を、俺も心地よく感じる。だからかな、俺も無意識のうちに美術室へと向かっていた。広瀬さんが鍵を開けて中に入ると、絵の具の古くさい臭いが鼻をつついた。
「広瀬さん、」
教えてくれないかな。俺を避ける理由を。