Where is a hero? | ナノ


ぼんやりとテレビを見たり家事を手伝ううちに、あっという間に週末は過ぎ去った。お父さんとお母さんと三人で夕飯を囲んだ日曜の夜も、私は正常に頭が動いていなかった。二人の会話がまるで見えないカーテンで仕切られているかのような感覚。まるで、テレビのトーク番組を見ているようだった。
着なれた制服の袖に腕を通すことですら鬱然とした感情が身体中を拡散する月曜の早朝。心配そうに服を着るまでの一連の動作を見守るお母さんを見て、私は最低な人間に成り下がってるなと他人事のように思いながら行ってきますと告げた。
幸村君とはこれでよかったのだろうか。一番の種はこれである。幸村君は何も悪いことしてないし、私を心配してくれたのにあんな仕打ちはさすがにない。自分が傷つかないために、相手を不快な気分にさせるような人間。そう自覚するたびに私は本当に悪い性格だと思ってしまう。まあ、客観的に見ても最低な人間に変わりないだろう。
重い足取りで校門を通過し、下駄箱の前までたどり着いた。下駄箱の中には折り畳まれた紙が靴の上に乗っていた。



『今日の放課後、絶対に屋上まで来て』



私の下駄箱に入っている手紙は毎度呼び出し関係だ。この三つ折りにされた紙なんて、差出人の名前を書いてないから更に怖い。……ああ、ラブレター事件の時もそうだっけ。絶対という言葉に大きな重圧を感じる。
一つ息を吐き、紙をポケットに入れた。嫌な予感しかしないが、放置すれば更に面倒なことになる。丸まった字体から推測するに、差出人は恐らく女子だろう。昨日の事件のことを知ってる女子だろうか。佐々木さん宛のラブレターを取るなんて最低!とかそんなことを面と向かって言うために出したんだろう。
くだらない。そう心の中で一蹴して上履きを取り出した刹那、私は硬直した。上履きの中でからからと小さな黄土色の物体が踊っていた。なんで、私の上履きの中に、画鋲があるの。寒気すらも感じる狂気に私は息をのみ、教室へと恐る恐る向かった。手紙を置いた人が、画鋲も一緒に入れたんだと思いたい。教室の扉を開けると、突き刺さるような数十もの目が私を貫いた。クラスメートの不自然さに冷や汗が背中を伝う。なにこれ。私は教室を見渡すと、友人二人が目前に立ちはだかった。



「まこと、あんたがそんな最低な人間だとは思わなかったわ」

「佐々木さんの下駄箱の中を勝手に探ったうえ、ラブレターを奪うだなんてサイテー!」

「私たち、絶交よ」



ああ、いつかこうなると思ってた。少し前から身構えていたせいか、それほど大きな衝撃はなかった。小さく分かったと言うと、感情のこもらない佐々木ファンクラブ会長の目が私を映した。



「どう落とし前つけてくれるわけ?」

「え、」

「佐々木さんと密会もしてたんでしょー!もうこれは退学決定だよ、佐々木さんを横取りしようと企てた罰!」

「ち、ちょっと待って、退学はやめて…!」

「なによ、あんた加害者でしょ?口出しする権利なんてないわ」



退学?めちゃくちゃだ。そもそも、どうしてこんな大事になっているのか訳が分からない。退学にまで追いやられるほどの苦痛を植え付けてやるという解釈でいいのだろうか。簡単に退学させるなんて言える友人にも心底驚いたが。
どうすればいい?私にはもう、誰もいない。一緒にいて落ち着くような親しい人は、もういない。けれど、退学だけは阻止したい。高額な授業料を払ってここに入学したんだ。ちゃんと卒業して大学に通いたいし、退学なんて親不孝したくない。親にまで顔向けできないような人間には、なりたくない。

動揺と焦りでうまく頭が回らない。口をぱくぱくさせながらこの場を乗りきる策を考えようと俯いた時、背後にある教室の扉ががらりと開いた。



「ちょっと待ちなよ」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -