きっと、広瀬さんも友人とのズレに気づいている。そして悟っている。ズレの修復が難しいことを。当人どうしでなかなか修復できないことなんて、ざらにある。よく「他人は関係ないでしょ!」なんて台詞を耳にするけど、それは大きな間違いだ。他人が介入しないと解決できない問題の方が多い。そんなことを言ってしまっては裁判所の存在を全否定しているようなものだ。他人が介入しないと…いや、介入してもなかなか解決できないズレだってある。広瀬さんはズレへの恐怖を抱いてしまい、よそよそしくなってしまったのだろう。
でも、お願い広瀬さん。俺を信じてほしいんだ。一生不安にさせない、なんて綺麗事は胸をはって言えないけれど。広瀬さんの不安に、できるだけ早く気づくようにするから。俺が一緒に受け止めるから。だから、
「待って!」
背を向けて歩き出す広瀬さんの、ほっそりとした手首を掴んだ。きっと今止めないと、取り返しがつかないような気がした。咄嗟に振り返る広瀬さんの目は今にも泣き出しそうなものだった。
「左頬、手当てしないと」
保健室に行こう。そう優しく宥めるように言うと、パシンと乾いた音が響いた。ほんのり赤い右手首に一瞥を投げ、弾かれたんだと認識した時広瀬さんは口を開いた。
「もう、関わらないで」
もしかしたら俺は、もっと大事なことを見落としている。人間不信の前兆の範疇におさまる言動じゃなかった。広瀬さんは、俺の知らないところで、大きな事件に巻き込まれたのかもしれない。俺が合宿に行ってる間だと考えるのが妥当。広瀬さんは人間でなく、俺を避けている。
俺は当然避けられるような言動は起こしていない筈だ。考えられるのは、第三者の存在。佐々木?いや、もしかしたら“佐々木の毒牙にかかっておらずかつ広瀬さんに片想いを寄せている男子”か、“佐々木の毒牙にかかっておらずかつ俺に片想いを寄せている女子”だ。特に嫉妬は、恋の闇に陥りやすいから可能性は高い。
今俺がしなければいけないことは何だろう。広瀬さんを追いかけて話し合うこと?でもこうして俺が呆然と、考えを張り巡らせている間にそそくさと立ち去ってしまった。どうすれば広瀬さんと和解できる?そもそも恋に疎い俺は、うまく策を練って接近することができても、原因不明のズレに対する対処法は分からない。でもこの程度のズレも解消できないようじゃ、これから先もっと大きな壁にぶつかった時に二人で乗り越えていけない。
来週の月曜日、
行動に移す。