Where is a hero? | ナノ


私はこの後、反り立つ壁に直面することになる。少し大袈裟に言えば、1週間にも満たない短期間で、人生の選択を急に迫られることになる。人生の選択で語弊はないと思う。そう、たぶんこれは私の今後の人生に大きな影響を与える出来事だったはずだ。しかしその原因になったのは、たった一通の手紙だった。

今朝、下駄箱の扉を開けると一通の手紙が上靴の上に被さっていた。なんかデジャヴュを感じてならない。また面倒なことなんだろうか。そうため息を吐きながら靴を履くために手紙を手にとった。一瞬ラブレターかとも思ったが、わざわざ私にラブレターを送るような人間なんてここにはいないだろう。みんな佐々木さんにゾッコンだから私に恋心が移ることなんてない。いやまああってほしくないしいいんだけど。佐々木さんは不細工なままなのに、日に日に周りの佐々木さん熱が上昇している気がする。最近では佐々木さんを襲おうとする男子や女子までいるらしい。ファンクラブはその対策をとるために放課後遅くまでミーティングをしているとか。いや、女子もいるってまじなの。まさかこの学校の女子生徒はみんな、佐々木さんのまじないにかかって百合に目覚めてしまったのだろうか。え、ちょ、怖い。溜め息をついて手紙を裏返すと、封にハート型の赤いシールが貼られていてすごく萎えた。



「広瀬さん、よければノートを見せてほしいんだ」



手紙をあれから読むことなく、1時間目の休み時間を迎えた。というか手紙はもう、怖くて読めない。まさか佐々木ではなく私にラブレターを出す人がいたとは思いもしなかった。正直、この差出人が幸村君だったらなと柄にもなく考えてしまう自分がいる。

そんな私の想いを知らない幸村君は、ふんわりと笑ってそう言った。私のノートは女子みたいにゴタゴタしていない。むしろどちらかというと、結構うまくまとめているんじゃないだろうかと思う。わからない単語には電子辞書で調べた解説をのせ、教師の説明と教科書を照らし合わせながらノートにメモをとる。後から見直した時に自分が理解できるように工夫しているつもりだ。少し字が丸くはあるけれど、私は自分のノートに自信を持っている。特に気にすることなく幸村君に生物のノートを貸せば、ふんわりと綻んでありがとうと告げられた。すごく綺麗で、見惚れてしまうような笑顔だった。

人間のからだのしくみ上仕方ないのだが、幸村君にノートを貸した後、無性にトイレに行きたくなった。今日はそういえば、まだ一度もトイレに行ってないな。私は席から立ち上がり、女子トイレへ向かった。教室付近にあるトイレは騒然としていて、見事に女子だけ混雑しているようだ。待つ側も佇む側も多すぎてカオスだ。なんで女子はこうもトイレに集いたがる。さっさと身だしなみを整えて帰るべきだ。鏡の前でピーチクパーチク佐々木の話ばかりして、不愉快極まりない。私は仕方なく違う棟にあるトイレへと足を運ぶことにした。まだ7分あるし、今から早歩きで向かえば余裕で授業に間に合う。そう思っての行動だった。



「あれ、まことちゃん」



手をハンカチで拭きながら歩く佐々木さんと、ばったり廊下で立ち会ってしまった。違う棟のトイレの前だったため人影も皆無な状況を察し、佐々木は嬉しそうに笑った。



「まことちゃんもここでトイレするんだ…あ、今日も昼食、一緒に食べたいな」



上目使いで聞いた佐々木に、テニス部はどうしたと尋ねてやりたかった。勿論無理だけど。あの柳君あたりといつも一緒に食事をとっていたのに、なんで会話すらあまり交わさない私と?昨日までは彼らも公欠していたし仕方ないけれど、今日はなんで?

私は少し眉をひそめ、今日は先約があるからと丁寧に断っておいた。まあ嘘はついてない。正直気味が悪いから気乗りしないっていうのが一番の理由だ。しかし佐々木は魔法か何かを使ったのか、それって幸村君?と先約している人物を言い当ててしまった。まあ彼女はほぼ全校生徒にまじないをかけるような超人だし、これくらいで驚いていたらきりがないだろう。私は図星だと動きに出てしまったので、逃げ道もなさそうだと判断し素直に頷いた。



「へえ、そっかあ。まことちゃんもしかして幸村君のこと好きなの?」

「え、いや…」

「幸村君は多田さんに片想いしてるんだって、蓮二が言ってたよ」

「そ、そう」



あ、蓮二って柳君のことね。そう遠慮がちな表情をつくりながら話す佐々木は、まるで言動には遠慮がなかった。取り繕ってる感満載だ。いつでも相談してねと苦笑する佐々木を見て絶対相談しないと心に決めた。

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