Where is a hero? | ナノ


木曜の午後、私は夕飯の買い出しに来ていた。佐々木とはあれから、一応友達として昼食を三日間共にした。あんなに気まずい雰囲気だったのに、何がおもしろくて誘うのか全く分からない。まあこれもテニス部がいない間だけだろう。

私は平凡な人間だと思っている。だが、ひねくれている様は普通の基準を少し上回るだろう。急に友達になってと告げた理由が仮に唯一本当の自分を知る人だからだとしても、未だに受け入れることができない。自分でかけたまじないを解いたらどうなんだ、取り返しがつかないならそれは自業自得だ、そう心底思ってしまう。それに、不審な出来事もあり仕組まれているようにしか思えない。友人からのメールがいい例だ。最近友人とは話すこともほとんどなくなってしまった。今一番私と親しく話してくれるのは、もはや幸村君くらいだった。まあ、まじないが解けてしまえば、この関係にも終止符が打たれることになるのだろうけど。

今日は、幸村君が合宿から帰ってくる日だから、明日からはまた会える。叶わない恋だと分かっているから、嬉しいような苦しいような。いいさ、ゆっくり諦めていけば。時間がかかるかもしれないし幸村君と仲が良いかぎり無理かもしれない。けれど、夢はみないほうがいい。期待を裏切られたときの衝撃は計り知れないのだから。自分をあまり傷つけないために。自分から他人と深く関わらなかったように、自分の余分な情報を他人に一切漏らさなかったように、人見知りでいないといけない。自分の身は自分で守らないといけない。自分自身の管理は、自分がしなければいけない。だから私は、そっけない人間でこれからもいる。

そう考えると、余計につらく感じた。唯一胸襟を開いて接することができた友人を失ったのだから。私は溜め込んだものもよく友人に吐き出していた。友人もよくそんな私の話を、親身になって聞いてくれた。でももう、私を支えてくれた、隣で優しく笑うあの二人はいない。1ヶ月くらい前まで、他愛ないことを話して笑いあってたのに、だ。まるで金目的の宗教に心を乗っ取られてしまった旦那に、ひたすら哀しみ嘆く嫁のような、そんな心情。



「あら、まことちゃんじゃない?」

「…あ、あなたは」

「ふふ、この前は娘がお世話になりました」



魚介類売り場でソプラノの声が降りかかってきた。見ると先週の土曜日に合同料理をしにきた人だ。娘とはマリオパーティーを一緒にした女の子だろう。後からお母さんに聞いたところ、かなり喜んでいたらしい。子供は好きだから楽しく過ごせて嬉しかった。



「娘がずっと、まことちゃんと遊びたいって言うのよ。また遊んであげて」

「はい、ぜひ。………すごい量ですね」

「え?ああ、かごの中ね。今日遠征に行ってた息子が帰って来るから、ちょっと豪華にしようと思ったの」



そうなんですか、と呟きながらふと頭の中に浮かびあがってきた幸村君の顔を振り払う。お母さんによろしく言っておいて、と綺麗な笑顔を浮かべる相手に私もはいと言って愛想笑いを浮かべた。

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