Where is a hero? | ナノ


本当にありえない。のんびり美術室で昼食をとっていると急に佐々木が入ってきた。咄嗟にしゃがんで身を隠してしまったが、様子が変だと伺えばいきなり慟哭しだすし。タイミング悪くケータイは振動してしまうわで、最悪の一言につきる。

しかし、友人からのメールだったようだが、友人は普段昼休みにメールなんてしただろうか。というか、最近友人は私なんてどうでもよくなったのか、メールすら送ってこなくなったというのに、変だ。何か仕組まれている気がする。



「…ごめん」

「あっ、広瀬さん…」



佐々木さんが私を凝視するのも無理はない。私だって同じ立場ならそうするだろう。あくまで佐々木さんが本気で悲しんで泣いてるならの話だけれど。『愛がなければ何も見えない』という警句を唱えた偉人がいたような気がするが、この場合私もそれに当てはまるのだろうか。私は今まで佐々木をあまりよく思ってはいなかった。印象は、望んで皆に愛されたがるミーハー女。友人を含め立海の全生徒を狂わせた張本人(幸村君は対象外だったようだけど)。でもそう思うのが、正常者からしたら普通なんじゃと私は思う。



「いいの、あの、急に泣いて本当にごめん…」

「…なんで佐々木さんが謝るの。私が謝る立場だし。隠れてごめん」

「いや、でも、誰もいないと思ってここに入っちゃったから、確認もちゃんとしなかったし…私の早とちりが原因だから」

「……あー、うん。でも、気にしてないから(確かにその通りだけど)」

「!」



小さな一重瞼の下に宿る瞳は、瞳孔を開き光を含ませていた。先ほどとは違う希望の眼差しとやらに私は怪訝に思いつつもお弁当箱を持って立ち上がった。やっぱり教室で食べよう、ここに佐々木さんといるのは辛い。じゃあねと声をかけて扉へと向かうと、通りすぎる際に左手を掴まれた。ちょっ、お願い、待って!そう必死に言葉を紡ぐ佐々木さんに、私は扉へ視線を向けながら心の中で溜め息をついた。なんだか、面倒なことに巻き込まれた気がする。



「……佐々木さんに何があったかは分からないけれど、聞くつもりはないしこのことは黙っておくから」

「え?」

「(は?)」



これって、当たり前の配慮だと私は思う。相手が唯一無二の親友ともなると話は変わってくるが。佐々木とは親友以前に親しくなった覚えもない。だから堅苦しく言えば、私が佐々木の悩みを追求する義理なんてないのだ。聞いたところで心に残るような名言やアドバイスはかけてあげられないだろうし。そういうのは自分よりもっと他に適任者がいるはずだ。相手の抱える悩みの重さからそもそも分からないのに、そんな無責任で軽率な言動はとれない。もう一度言うが、これは当たり前の配慮だと私は思う。佐々木が目を見開いていかにも「なんでこの人は私の事情を聞かないんだろう」な顔をされてもだ。それがはたして聞いてほしいという欲求からくるのか、もしくは単純な疑問からくるのか…そこまではさすがに分からないけれど。



「あんなところを見られたからには、話だけでも聞いてほしいの」

「(……確かにそれも正論か)……うん」

「あの、広瀬さんは私のこと、どう思う?」

「(……いきなりそれなわけ。しかも聞かれるの3回目なんだけど)や、普通…」

「なんで!?」

「えっ、だってあんまり関わってないし…気に障ること言ったならごめん…」

「あ、ううん、違うの。ただ驚いて。この学校の生徒ってさ、私のこと好きな人ばかりだから」

「(本当にね)」



自分から好かれるようにしてるんじゃ。そんな言葉を軽々と発言できるはずもなく、喉元から出かかった声を無理矢理ひっこめた。まあ、話を聞くくらいならしてもいいか。どうせ私みたいな部外者に話す内容なんて、些細な鬱憤晴らしだ。これさえ終わればまた他人に戻る。それでいい。本当に佐々木が悪い人かどうかなんて私には知ったこっちゃないし見極める能力だってありゃしない。怪しいとは思うがそれとこれとは話が別だ。でも友人や幸村君のことを思うと無性に腹立たしくなる。なら理不尽かもしれないが、せめてもの足掻きだということで悪い人だと思っていよう。エゴイズムだらけの人間なんだから、これくらいの我が儘くらい許されるだろう。



「こ、この二の腕、どう思う?」

「………えー、ふくよかだと(苦し紛れ)」

「本当!?」

「…………………あー、ほんの少し豊満だと(すごく苦し紛れ)」



そう言い終わると、嬉しそうに佐々木は微笑んだ。その顔は綺麗からも可愛いからもほど遠い不細工な顔だった。本当に嬉しかったのかそれともまだ涙腺が緩んだままなのか、目尻には涙が薄く滲んでいた。もしかしたら、彼女は自分が不細工な顔だと、太い二の腕だと気づいているのかもしれない。いや、この聞き方からすると気づいているんだろう。じゃあ何、「あなたより不細工な私のほうがこんなにモテてるのは私が優れているからよ」とでも言いたいのか。……いや、違うか。「本当は不細工なのに皆からモテて辛いからあなたみたいに分かる人がいて嬉しいの」って方が正しい気がする。



「私、皆に好かれるほど可愛くないから怖かったの…でも広瀬さんがいて本当によかった」

「そ、そっか…」

「うん。私と友達になってください(私、女優に向いてるかも)」



なぜそうなる。私は動きを止めた。

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