「広瀬さん、俺明日から合宿でいないんだ」
そうなんだ、と私は言った。私は一般人から見ると人見知りが激しく、素っ気ない性格をしていように見える。つまり幸村君への恋心を隠すには、私は素っ気ない態度を演じないといけないのだ。言い方を変えればこれもツンデレの一種…にはならないか、諦めてるんだし。まああまり喋らないから素っ気なさそうに見えるだけで、実際そんな性格では断じてないんだけど。人見知りを少ししてしまうのは事実だけど、人並みに空気は読めるし素っ気なくはないだろう。幸村君は私のことを友達程度にしか思ってないからこれくらいがちょうど良いんだ。
「だから次学校に来るのは…来週の金曜日だね」
「……そっか」
「ふふ、実は寂しいんだろ」
「えっ?いや…」
「メールするよ」
「あ、うん」
そりゃ確かに寂しい気持ちも多少はあった。幸村君からしたら冗談なのに、私からしたら的に当たりすぎていて否定するのが辛かった。あーこれが叶わない恋か。よくそれっぽい歌詞が書かれている歌があるけど、今なら賛同できるかもしれない。これは本当に、胸を締め付けられる。
「そうだな…風呂に入るのが9時頃だから、メールは10時くらいになりそう」
「そっか。その時間なら私も大丈夫だと思う」
佐々木のまじないから解けてしまったら、またテニス部のファンクラブができるんだろう。なら本当に幸村君といる時間はなくなってしまうんだな。でも解けない限り、狂ってしまった友人も元には戻らない。ああ、すごく複雑。
「金曜日にお土産も買ってくるよ」
「え?…うん」
合宿なのにお土産とかあるんだろうか。なんて考えていると授業開始のチャイムが鳴った。