ぴしり、と空気がはりつめた中、最初に口を開けたのは丸井だった。
「もしかして…お前もその会長とやらの仲間なんじゃねーのかよぃ」
全員がその言葉に目を見開いた。あり得ない。むしろ広瀬さんは最近佐々木の毒牙が薄れつつあった。まあ佐々木との接触がないからだろう。百聞は一見にしかず、友人からの情報はそこまで効力をもたないらしい。それでも十分注意をはらっておく必要があるけれど。
「確かに二人の間でそういう謀略を練っている可能性もあるな」
「そんなこと、してない」
「どうだかのう、口ではなんぼでも言えるっちゃ」
「…………」
恐ろしいほどに泣きそうな顔をした。そういえば今日の休み時間に大丈夫かと声をかけた時も、全く返事はこなかった。その時見せた憂いを宿した目よりもずっと辛そうな顔だった。周囲の変化に気づいてる、それは毒牙が薄れている証でもあるから俺にとっては嬉しいかぎりだ。しかし広瀬さんからすればどうだろう。友人と意見の食い違いなんて、当然増えてくる。こうした佐々木信者からの非難を浴びることだって。そもそもこんな風に生徒が狂ってしまったのは、佐々木が元凶だ。佐々木によって広瀬さんは傷つく。それは毒牙から解放されても、間接的に広瀬さんを奪われたことになるだろう。
「ふざけるなよ」
自分でも想像していた以上に低い声が出た。あの真田や蓮二でさえ冷や汗をたらたらと惜しみ無く出している。
怒るにきまってる、好きな人のことを侮辱されそうになっているんだ。冤罪にかけられているんだ。
「幸村く、」
「広瀬さんはそんなことするような人じゃない」
「しかし幸村、丸井の言っていることが当たっている確率も…」
「じゃあ誰の話なら信じるんだい?それに広瀬さんが言ったこともあながち間違えてない」
「………」
違う?そう言って蓮二へと目を向けた。確かにそうだな、と拭いきれてない冷や汗をたらしながら呟いた。