Where is a hero? | ナノ


下駄箱を開けると、一通の手紙が入っていた。上質な高級紙で、封筒には軽く糊付けされていた。ラブレターだろうか、しかし私なんかにわざわざラブレターを送りつけて告白するような物好きもなかなかいないだろう。靴を履き替えて教室について紙を取り出した。便箋の糊がうまく剥がれないので、縁をハサミで切ったのだ。三つ折りになった紙を開くと、丁寧な書体で文字が綴られていた。



『便箋での急な便り、すまない。3年B組の柳蓮二という。名前くらいは知っているだろう。すまないが今日の昼休みに、弁当を持って屋上に来れないだろうか?広瀬の友人のことで少し話がしたい。事情や仔細は屋上に広瀬が来てから話そう。本当は会って直接頼む、という手立てもあった。しかしそれだと友人に勘づかれてしまう確率が便箋に比べはるかに高い。なんとか友人に勘づかれないように、屋上まで来てほしい。よろしく頼む』



どくり、と心臓がなった。友人という言葉が出てくるたびに、胸がきりきりと傷んだ。きっと友人の下駄箱の件だ。本当は、優しくて無垢なだけなのに。なんで友人はあんなに非道なことをしたんだろう。コソコソと卑怯な手を使って他人を地獄に追い込むような人間じゃないのに。ああ、佐々木のせいだ。佐々木のせいで私の友人は別人に変貌してしまった。もう、私が知っている友人は、いないんだ。

封筒に紙を戻し、鞄に入れた。それから昼休みまでの4時間は本当に、あっという間だった。右から左へと教師の熱弁は全て聞き流し、黒板に書かれた文字をただうつすだけだった。幸村君がなにか言ってた気がするけど、全然覚えてない。



「広瀬か、急にすまないな」

「……いいの。友人と話し合ったんだよね」

「ああ。良案を明日の放課後までに考えろと言われてな。広瀬から何か情報を聞き出せないかと思ったわけだが」

「情報…?」

「友人から何か聞いとらんか?俺らについてぜよ」

「……許すつもりは、毛頭ないって」

「ふむ、やはりか。その確率は82,17%だったからな」

「……………」



彼らテニス部は、私達ファンクラブの敵だと口を揃えて言っていた。まことも丸井と切原と仁王には絶対近づいちゃ駄目だと。彼ら三人はいずれ、きつい仕打ちを受けるようになると。テニスなんてできない体にしてやってもいいと。でも私はそんなこと、友人にしてほしくない。それ以上過ちを犯してほしくない。

私は、彼らテニス部に手をかそう。いや、かさなくてはならない。大切な友人がしでかした不始末なんだ。私がなんとかしなくてはならない。彼らと協力して、あわよくば目を醒ましてほしい。もし、友人にこのことがバレて、痛い目にあったとしても。



「けれど、」



そもそも友人がこうなったのは、はっきり言い出せなかった私にも責任はある。私が、佐々木は不細工だと否定すればあんな風にはなってなかったかもしれない。今まで散々佐々木のせいだと言って現実から目を背けてきた。けど実際は、佐々木だけのせいなんかじゃない。



「佐々木さんをテニス部から解放すれば、許してやるって、言ってた」



ぴしりと空気が凍りついた。

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