Where is a hero? | ナノ


図書室に俺が着いた時、広瀬さんは一番端にある席に座っていた。お待たせ、と言って鞄を一旦椅子に置くも広瀬さんから返事は返ってこない。不思議に思い広瀬さんの顔を見ると、さらに虚ろな目をして教科書に目を向けていた。これもやっぱり、焦点が合ってない。肩にぽんと手を置くと怯えるように体を弾ませて俺を見た。しかしそれは刹那の話で、広瀬さんはすぐに平静を保ちだした。やっぱり、何かあったんだ。ごめんと謝る広瀬さんに笑顔で大丈夫だと返す。生徒が多数いる図書室では何かあったのか問うことはできない。閉館して一緒に帰るまで待ったほうがいいな。そう考えてこのあとどう行動するか思索していた。

夕方6時。図書室を利用していた者はまばらに散って扉の向こうへと姿を眩ましていく。俺達もそろそろ行こうか、と立ち上がると広瀬さんはこくりと頷いた。もし広瀬さんの悩みの種が佐々木と関係していたら、俺は果たして怒りを抑えることができるだろうか。俺の知らない場所で佐々木と関わっていて、佐々木の毒牙が深く刺さっていたら。考えただけで虫酸が走る。

図書室を出た後、広瀬さんの歩幅に合わせて歩き校門を出た。帰宅途中の生徒もいるしまだ聞くには早い。徒歩5分のところにある個人経営の花屋に到着すると、広瀬さんは色とりどりの花に目を丸くした。



「ふふ、綺麗だろ?」

「うん。花に縁がなかったから、気づかなかった。花ってこんなに、美しいんだね」



広瀬さんはそう言ってしゃがむと、スターチスの花弁に優しく触れた。紫色のくしゃっとしたそれは俺も好きな花だ。スターチスが気に入ったのか、広瀬さんは優しく愛でるように撫でる。花と広瀬さんはきっと、相性がいい。そう直感的に思った。



「幸村君はどの花が好きなの?」

「今広瀬さんが手にとっている花だよ」

「!」

「この子はスターチスって言うんだ。魅力的で可愛い花だと俺は思う」

「……私も。惹き付けられる何かを感じた。ぱさぱさとした花弁が、どことなく、懐かしく感じる」



確かに俺は、基本どんな花でも好きだ。シクラメンのように苦手な花も中にはあるけれど、それは育てる上での話。今では全ての花に魅力を感じる。けれども花を好きになったのは、母さんがスターチスを買ってきた時からだった。なぜだか、見ているだけでノスタルジアを彷彿とさせるスターチスが、花の魅力に気づく、いわば俺の原点だった。

同じ花を好きになるなんて、もうこれは運命じゃないだろうか。スターチスに夢中になる広瀬さんを俺はじっと見ていた。

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