Where is a hero? | ナノ


幸村君と初めて会話を交わした時は、あまりに脚光を浴びていただけにどちらかというと良い印象を与えてはいなかった。私のひねくれている様はすこぶる付きらしい、皆がちやほやするものを認めたくない習性があった。どうせ煙幕を厳重に張って、打ち解けているように見せているだけ。胸襟を誰にも開いてないのでは、と思っていた。


「中学生の頃から好きなんだ、広瀬さんの絵が。優曇華(うどんげ)ってタイトルの絵を美術部で描いてただろ?それを見て感動したんだ」


その時の幸村君の笑顔はあらゆる衆生を愛でるかのような綺麗な笑みだった。とてもこんな表情、仮面を張り付けたままではできない。彼の気持ちや言葉はきっと、本当に綺麗なのかもしれない。


「…ありがとう」


本当に嬉しかった。実際あんな独創的な絵を、褒める者は少なかった。時には目が痛くなるような色を組み合わせることもあったが、なんでこんな色を使うんだ、とよく言われた。特に美術の教師から。この場所にこの色はミスマッチよ、と何度も言われる。私にとってはマッチしてるんですよ、先生。そう言っても皆、己の固定観念ばかりを押し付けようとする。自分の描きたいように描く、それが芸術じゃないのだろうか。

しかしそんなことを知らないであろう幸村君は、自然に私の絵の魅力をあげた。饒舌すぎないしゃべり方に、「これは演技じゃない」と私の尖った第六感が告げた。


***


翌朝。学校に来ると友人が私に押し掛けてきた。私より二回りは上をいくだろうテンションの高さに、若干尊敬の念を抱きながら何があったのかを聞く。


「佐々木さんと丸井君、付き合ってるんだって!」

「………」


佐々木なんて私の中ではもうどうでもいい存在と化している。あまり良い印象は持たないが、害さえなければ問題ない。実際関わる機会もほとんどなかったため、触らぬ神に祟りなしだ。

しかし、友人の口からは驚くべき言葉が投げかけられた。


「丸井君ちょー羨ましいんだけど」

「私達の佐々木さんを奪うなんてあり得ないよね!」

「それな!いくらテニス部レギュラーだからって許せねーわ。ちょっと今日ファンクラブの緊急集会開こ」

「さっすがー!ね、まこともそう思わない?!」


何を言っているのか、一瞬分からなかった。そんなこと、思うわけがない。というか、友人二人の間に一体何があったのだろう。最初佐々木がマネージャーになった時は「佐々木さんいいなー私もやりたい!」なんて言ってたのに、まるで立場が逆転している。

さらに友人は二人とも佐々木ファンクラブに入っているらしく、内一人は会長。そんなの全然聞いてないし口にしなかったよね。たまたま?たまたま私に言わなかっただけ?私の中にはあらゆるモヤモヤが渦巻いていた。けれどもそれは表情にも口にも出ることなく、ただ乾いた笑みを浮かべて相槌をうつだけだった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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