ぱこん、と球を打ち返す大きな音が響く。相手である壁に向かって、的確にボールを当てる。的である白いちいさな丸が剥げてきているから、また蓮二と相談しないとな。そんかことを考えていると俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。俺が忌み嫌う人の、気持ち悪い程に可愛い声。どうやったらあんな矛盾が皆に通用するのか問いただしてやりたいくらいだ。聞こえなかったことにしたかったが、さすがにその対応は大人気ないにも程がある。仕方なく壁に当たったボールを手のひらの中におさめた。
「……何だい?」
「えっ、あの、ドリンク持ってきたの」
「もう部活は終わったはずだけど?」
「でも幸村君、一人で頑張ってたから…」
「……そう、ありがとう」
余計なお世話なんだけど、と危なく口に出してしまいそうになった。彼女なりの優しさなんだろう。それでも中身は自分好みの味付けにした糖分が高すぎるスポーツドリンクだ。優しさや配慮をもっと違う面に出してほしいことこの上ない。
「幸村君はいつまで練習してるの?」
「…さあ」
「え?」
「…分からないから先に帰ってくれないかな」
俺と二人きりで帰るのが目的だったのだろう。ドリンクはそのおまけ程度。だから粉末もちゃんと溶けきってないわけね、本当なめられちゃ困るなこの部活を。
「そ、そっか…」
「ああ、ちょっと待って」
「!、どうしたの?」
「このスポドリ、今までと全然味が違うんだけど。以前教えてもらった分量に戻しておくように」
「あ、うんわかった!ごめんね」
これからは気をつけるから、そう言って謝る佐々木に俺は軽く息を吐いた。
素直に謝ったにも関わらず彼女に対して嫌悪感を抱いてしまう俺は、もしかしたら最低な人間かもしれない。いや、だが多くの生徒の目を欺いている張本人なのだ。仲間の変貌を目の当たりにしてしまっては、そう思うのも無理はない。
佐々木の存在に自分の中で問答しながら、ラケットとボールを鞄に詰め込んだ。