4時間目の授業が終わった。昼食を今日も教室でとるつもりでいた俺は、弁当の入った巾着を机の上に置いた。りぼん結びをほどいて弁当箱を取り出した時、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「すまないが、今日の昼食、ちょっといいか?」
「……は?」
「佐々木なしで、話し合いたいことがある」
そこには柳だけでなく、丸井や仁王、レギュラー陣が一式いた。佐々木をわざわざ抜いてまで、俺と話し合うことなんてあっただろうか。俺より佐々木を優先するじたいおかしな話だが、それすらもう当たり前のようになってしまっている。もしかして、佐々木の毒牙から解かれたのかもしれない。巾着を持って俺は教室を出た。
―――――――
「実は今朝、丸井の下駄箱にカッターの刃が仕込まれていた」
開口一番がこれだった。しかし勘のいい俺はその一言だけで、柳が言いたいことがわかった。
「佐々木のファンクラブ、だね?」
「ああ。俺も丸井と同じ被害にあった。仁王に切原もだ」
確かに、被害にあったメンバーはスキンシップが激しかった。真田もジャッカルも柳生も、そこまで行動に出してはいなかったので被害を受けなかったのだろう。勿論、俺も。
「しかし手の怪我は我々テニス部にとって、かなりの痛手をおうからね」
「そこで少しファンクラブのリーダー格と口論しようと思ってな」
あ、やばい。俺は瞬間的にそう察した。佐々木のファンクラブのリーダー格は、広瀬さんの友人だ。もしかしたらこれが原因で、広瀬さんまで厄介事にまきこんでしまう可能性がある。けれども柳の言う通り、これはきちんと解決しておくべきだ。解決するには会長である広瀬さんの友人と直接話す必要がある。今ではファンクラブに入っていない生徒の方が圧倒的に少なく、30人を下回るそうだ。広瀬さんはファンクラブに入ってないから良いように利用される可能性だってある。勿論そんなことは俺がさせないけど。
「今日の放課後に話をつけにいく。早めに事を終わらせないとエスカレートするだけだからな」
「…………」
「柳、俺実は言ってなかったけどよぃ、」
「どうした、丸井」
「俺その会長と、もう一人女子から宣戦布告を受けた。」
「ほう」
柳が薄く目を開ける。丸井の口から出た人物の名前は、間違いなく広瀬さんの友人二人だった。これだと余計、柳に広瀬さんという抜け穴の存在を教えたようなものだ。勘のいい柳ならもう頭の隅に広瀬さんがいてもおかしくはない。複雑な気持ちになりながらも食べ終えた弁当箱を片付けた。