朝は結構早めに登校するのが私だ。と言っても30分前だから私以外にも登校する生徒はちらほら見えるけど。30分前に来る理由としてはやはり、美化委員がまだ立ってないからである。特に注意されるようなことは何もしていないが、あの見定められるような目で見られるのがあまり得意ではない。
ちょうど門を過ぎると同時に肩を叩かれた。立ち止まり振り返るとそこには友人の姿。いつも時間にぎりぎり、もしくは遅刻するような時間帯に来るのに珍しい。私の隣に立って笑う、派手な化粧をした友人を見て私も笑った。
「シーブリーズ何買ったのー?」
「アップルミント」
「確かにアップルミントもいいよねー!私はピーチなんだ!」
「ピーチもいいと思う」
「やっぱり〜?でももうすぐなくなるからなあ…あ、今日の体育で使ってもいい?」
「勿論」
他愛もない話で盛り上がれる。心中を明かせる、数少ない私の親友。友人と共に校内へ入り下駄箱付近に行くと、佐々木の姿が見えた。ちょうど私の下駄箱と向かい合わせの位置にあるらしく、近づきたくないと思いつつ下駄箱へと歩み寄る。
すると佐々木の「ひゃっ」という声が耳に入った。もうなんだよ、と内心悪態をつきながら振り返ると下駄箱に詰め込まれた便箋が目に入った。下にも10枚近く落ちているようで、佐々木はただあたふたしていた。
一体どうやって溢れるほどの手紙を下駄箱に詰め込んだのか聞きたいくらいだ。あれはファンレターやらラブレターの類だろう。とりあえず立ち合ってしまったし落ちた便箋くらいは拾ったほうがいいだろう。そう思い行動にでると佐々木は私の存在に気づき、余計にあたふたしていた。もう何がしたいんだこの人。
「あの、ありがとう」
「……うん」
顔を直視することができない。私から見た佐々木と、周囲から見た佐々木はきっと大きく違うから。このギャップに向き合うことがまだ私にはできないでいた。
顔をそらしながら返事をすると、声を聞いた友人が駆けつけてきた。真っ先に佐々木さん、と声を弾ませて近寄る友人を見て衝撃を受ける。いつもなら「まことどうしたのー?」って覗いてくるような彼女が、だ。あれ、先に佐々木の方へ行くの?顔を思わず上げると佐々木は涙目で私を見ていた。
なるほど、友人は涙目の佐々木を心配して真っ先に声をかけたのか。そう少し安堵して小さく息を吐く。何に対して泣いているのかは解せぬままである。
「どうしたの佐々木さん!お腹痛いの?」
「ち、違うの!」
「じゃ、じゃあ何かあったの?」
「あの、広瀬さん」
「………何?」
「もしかして私のこと…、嫌い?」
うん、嫌い。
「違うよ!まことはちょっと無愛想な性格でさ、おまけに人見知りなだけだから。佐々木さんが気にするほどでもないよ!」
「…勘違いさせてごめん」
そういえば佐々木ってテニス部のマネージャーじゃなかったっけ。なんでここにいるんだろう、朝練はないのだろうか。とりあえず今は謝らないと厄介なことになりそうだから謝罪した。私は全く悪いことをした覚えはないが。ただ便箋拾っただけだが。
「ううん、よかった」
綺麗とは形容しがたい顔を微笑ませ、佐々木は去って行った。去り際に小さく「そうだよね」と呟くのを、私は聞き逃さなかった。