Where is a hero? | ナノ


平凡だとか普通だとかは、皆がみんなそう思うわけではない。人間の普通だと思う平均は、各々によって当然異なってくる。大勢が普通だと言ってしまえばそれは普通になるし、要は大勢の意見に動かされる民主的なものだ。



「会いたかったぜぃ愛実!」

「会いたかったなんて大袈裟だよ、丸井君」

「あー!また丸井君って言ったな!罰ゲームは何にするか柳と相談…」

「わ、わかった!わかったから見逃してブン太!」

「これからはそう呼べよな」


お願いだから廊下でラブラブしないでください。マジで引く。丸井ブン太率いる男子テニス部のレギュラーは女子からも男子からも定評がある。特に女子からは熱烈で、各々のファンクラブが形成されたほどである。あまりに見目秀麗なので夢見る乙女たちが勢いで作っちゃいました、なんて感じであっさりとできたわけだが。

視界に捉えてしまったことを全力で後悔しながら重い教室の扉を開けた。



「本当佐々木愛実って可愛いよねー!」

「まあレギュラーと絡んでも仕方ないか、あれだけ可愛けりゃ文句の一つも言えないわ」

「負け犬の遠吠えみたいで嫌だしねー!」

「校内1の美女かもしれないし。ね、まこと」

「あー…確か今年のミス立海候補で騒がれてるよね」

「そうそう!多田さんまじドンマイって感じ!ミス立海3連覇は無理だよねー!」

「わかるー!ほんとまじそれ。あ、おはよー」

「………」



ここまで不快に思う挨拶なんて他にあっただろうか。彼女たちにとって佐々木愛実の話題のほうが習慣である儀礼を上回ったのだ。

こうして最近苛々しながら過ごす原因は彼女、佐々木愛実にある。数週間前に家庭の事情だとひっくるめて紹介された彼女は、男女共にテニス部を超越する勢いで人気になったのだ。今まで彼女の批難など、一言も聞いたことがない。みながみな、口にするのは可愛いとか優しいとか守りたくなるとかその他もろもろで、とにかく全て喝采だ。いや、別に嫉妬とか羨望とかでは全くない。彼女と同じクラスでないため接触することも一切ないし、とにかくどうでもいいで切り捨てたかった。


ただ、彼女、佐々木愛実は、めちゃくちゃ不細工なのだ。


太い寸胴な脚はまるで大根。誰だ華奢で細い脚とか言ったやつ。丸顔で俯かなくても普通に見える二重顎。誰だ輪郭がスマートとか言ったやつ。褐色の肌に前髪から顔を出すニキビ。誰だ美顔機何使ってるのとか聞いたやつ。とにかく、絶望的な程に不細工だ。その点においては平凡顔の私を凌駕しているといえる。

しかし、彼女はこうして現にモテている。噂ではほぼ全校生徒の電話帳が登録されているらしい。不細工なのに。なぜだ。未曾有な出来事すぎてもうわけが分からない。



「いいなあ、私もあんな美人になりたい」



そう呟いた私の友人に、大きくため息をついた。これが普通だと皆が言うなら、果たして私が異状なだけなんだろうか。

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