Where is a hero? | ナノ


今日のミーティングは来週に迫ってきた合宿についてだった。本当佐々木と合宿なんてありえないよね。俺のメンタルが折れてしまいそうだ。しかし一番心配なのは広瀬さんだった。毒牙の促進剤が効き始めたらどうしよう、という恐れしかなかった。広瀬さんの友人は二人ともファンで、さらにその内一人は会長職についていた。どうにかしないといけないな、これは。



「ゆ、幸村くん!」

「何?俺急いでるんだけど。用事があるなら手短にしてくれないかな」

「いや、い、一緒に帰れないかな、なんて」

「悪いけど予定があるんだ。またにしてくれ」



ーー"また"なんてこないことを祈るが。
どうやら部員の皆は俺が佐々木に対して素っ気ない態度をとるのは、愛情の裏返しだと思ってるらしい。どこをどうみても嫌いなやつに向ける態度なはずなのに、よっぽど皆洞察力が欠けてしまったようだ。

俺は少し足早に廊下を歩いた。勿論一人で。「職員室に行く用事がある」と言えば佐々木と共に皆帰ってしまった。そんなに俺より佐々木の方が、皆大事なんだ。何年も一緒にいた俺よりも、急に転校してきたブスの方がいいんだ。

美術室が見えてくるにつれて、俺の心情は安らかに落ち着きをもっていった。そうだ、広瀬さんと電話帳を交換できないだろうか。そうすれば合宿中も会話できるし連絡手段を知ることもできるしで一石二鳥だ。

美術室の扉を開けると、広瀬さんが机に伏せて寝ていた。キャンバスには完成した意表をつくような綺麗な絵がそこにあった。綺麗で神秘的で、何か特別なものをもっているようなスターチス。

うつ伏せになって寝ているから顔は見えないけれど、このスターチスも広瀬さんもすごく愛しく思えた。そっと髪の毛を撫でて窓に映る夕焼けに思いを馳せていた。

そんな状態が数分続くと、広瀬さんが唸りをあげた。どうやら起こしてしまったらしい。手を止めて視線を広瀬さんに写すと、顔を上げていた。寝惚けた顔を見てつい笑みを溢してしまった。広瀬さんは俺を見るなり、顔面蒼白になって小さくごめんと呟いた。



「ふふ、気にしなくてもいいのに」

「…………あ、」



はい、これ。そう思い出したのか、真っ赤な顔を俯かせて隠しながら渡す広瀬さんはすごく可愛らしかった。きっと寝てたのが恥ずかしかったんだろう。つい微笑みながらも絵を受け取り、俺も鞄の中に入れていた色紙を渡した。本当はキャンバスが好ましかったけど、持ち運ぶには如何せん不便すぎた。だから色紙に描いたのだ。



「……綺麗」



スターチスの絵を。スターチスを渡す手立てもあったけれど、鞄の中に入れたままにしておくともみくちゃにされてしおれてしまうだろう。学校に持ち込むのは気がひけたのだ。だからそれはまた今度にしよう。

広瀬さんは大事そうに胸に抱き、ありがとうと呟いてまた少し顔を赤くさせた。

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