Where is a hero? | ナノ


佐々木視点



最後の足掻きだ。これで幸村君がまだ嫌悪を思わせる素振りをとったなら、もう諦めよう。そう決断して私は昼食を誘った。逆ハー女がいつも駆逐される大きな原因の一つ、それが諦めの悪さだと私は知っている。雅治やブン太も好きだし、蓮二に赤也もいる。それに合宿で他校にも会えるじゃない。あそこでなら、私はファンクラブの気兼ねなく媚を売れる。私の虜にできる。

結果的に幸村君は私と食べるどころか他人に押し付けた。そうか、忌み嫌われてるんだなこれは。私は一息ついて気持ちを切り替えた。本当に幸村君が好きだった。これは事実だ。けれど現状維持のためだ。幸村君を"テニプリのキャラ"としてでなく、完全な他人として接することにしよう。

ちなみに昼食ジャンケンの結果は永沢とかいうモブと食べることになった。けれど、それくらいで腹立たしく感じる程私は小心者ではない。たまにはサービスとして愛想も振り撒いておかないとね。

それにしても、確かファンクラブに加入してるのは今や1100人を越えた。生徒は全員で1200人。あと二桁で生徒全員となるわけだけど、先日珍しい人間を見つけた。


広瀬まこと


何度かばったり出会したことはあったし、その度に無表情だから淡白な子だなと思っていた。が、違う。あれは私をどうとも思ってない目だ。私の虜になった生徒が過半数を占めるため、そういった目利きには鋭くなってしまった。よく言えば慧眼ともとれるそれによって、大体相手の目を見るだけで私を好きかどうか見抜くことができた。

私は幸運なことに、対人関係における才能が先天的にあった。人の名前は一度顔と定着すれば忘れなかったし、一人一人の情報を脳内で識別することができた。そのために広瀬まことと聞いたときにファンクラブの会員じゃないと気づくこともできた。っていうかこのスキルがなかったら、さすがに千を越える人達の電話帳を登録するなんて不可能だ。



「あの、ありがとう佐々木さん!楽しかった!」

「本当?よかったあ」



愛想笑いを投げて彼に別れを告げる。スタスタと近場のトイレに寄って自分の顔を鏡に映す。


――おかしいおかしいおかしいおかしい!


ニキビがポツポツと肌に浮き上がり、鼻も以前より少し丸くなった。瞼はいつの間にか一重になって、肌の白さも少し黄ばんだ。今優先するのはファンクラブでもなく幸村君でもなく、私のこの顔の変化だ。ぎゅっと拳を握りしめて唇をきつく噛んだ。

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