Where is a hero? | ナノ


ふう、と一息ついてシャーペンと消ゴムを少し小さめの筆箱にしまう。基本赤いボールペン1色と蛍光ペン2色とシャーペンしか入ってないためペンのレパートリーは少ない。後はまあ指の関節ほどの大きさのケースに入った消ゴムと目盛りだけ刻まれた透明な定規が入ってはいる。筆箱を必要以上に大きくすると不便だし、十数色もペンは必要ない。逆にごたごたして気色悪いことになりそうだ。

なんて余談は隅に置いておくとして、やっとこさの4時間目が終了した。起立して小さく頭を下げて座る。待ちに待った昼食にいつもは高陽するはずなのに、最近はめっきりしなくなった。友人二人の元へと弁当箱を持って移動しながら、少し憂鬱になっている。



「幸村君っ!」

「あ、あれ佐々木さんじゃない!?」

「やばっ、超可愛い」



彼女が出た。分厚な、赤いタラコ唇が動く。え、可愛い?どこが?幸村君は苦笑を顔に浮かべて佐々木に目を向ける。おおよそ、昼食を誘いに来たのだろう。さすがに幸村君もこんな人前では下手に動けない。何せファンクラブの会長と幹部もいるのだ。佐々木が小走りで幸村に近付くと、恐ろしい程に予想通りの言葉を投げかけていた。しかも佐々木は、テニス部レギュラーを省き、二人でたまには食べたいと申し出たのだ。御愁傷様、幸村君。彼女が言うにはレギュラー達には既に許可をとったらしい。幸村君は見事な王子様スマイルで言葉を少し濁らせていると、友人二人がふいに本音を漏らした。



「いいなあ私も佐々木さんと一緒に食べたーい」

「マジそれ!幸村君いいなーご飯食べるんだー」



わざと言い聞かせるようにゆっくり大きな声で友人は言った。しかしその一言はクラス中に広まった。確かに言えてるよね、幸村君いいなあ、ていうかテニス部いいなあ、俺らも一緒に食いてえ。口々に言い合うクラスメートは正直異常だと思うが、彼らからしたら私と幸村君が異常だと分類されるのだろう。それが不服だと思うし、悔しくもある。そんなことを考えていると、幸村君がまさかの予想外な発言をした。



「なら、俺のかわりに佐々木と食べるかい?」



それにはクラスメートだけでなく、私も佐々木も唖然とした。佐々木は戸惑いを隠しきれず、小さくへ?と発するのが聞こえた。滑稽なことに、一寸の沈黙を経て教室に響き渡ったのは数十人もの歓声である。



「よっしゃー!俺俺!俺行きます!」

「は?何言ってるわけ?私だから」

「え、ちょっ、」

「私達も行きたいです」

「俺も俺も!こんなチャンス二度とねーじゃん!」

「まっ、待って…」

「じゃあジャンケンで決着!勝ち抜き戦で優勝者が佐々木さんと昼食でいこーぜ!」



うまく仕切りあげた男子の発案に反対者はおらず、二人ずつに分かれてジャンケンをすることになった。これ、私も参加するべきなんだろうか。正直すごく混ざりたくない、そう切実に思っているとふいに腕を引かれた。開いたままだった教室の扉へと突き進み、廊下を早歩きで進む。私の腕を引く幸村君の、青みをもった髪が振動にあわせて上下に揺れた。

ああ、私たち逃走してるんだ。握られた手に心臓が高鳴り意識してしまう。私は幸村君に引かれるまま美術室の方向へ向かった。


――――――


ジャンケンは十数分に渡り接戦を繰り返した結果、永沢に決定した。佐々木はひくひくと眉間に皺を寄せる。こんなはずじゃなかったのに、と唇を噛み締めるが印象を悪くするわけにもいかない。無理矢理作りあげられたような笑みはそんな思惑を雄弁に物語っているようだった。しかし幸村があからさまに佐々木を避けたために、妙に冷静になれたのだろう。佐々木はあっさりと諦念を決意したのだ。
ファンクラブが佐々木の行動を規制しているようであり、それを感じとっている佐々木自身あまりいい思いはしていない。彼女は永沢と共に教室を出た。



「あれ、まことは?」

「あー美術室に行ったんじゃね?まことたまに美術室で一人で食事とることあるしさ」

「でもその時は私たちに声かけたよね?」

「私らジャンケン大会で白熱してたから痺れ切らしたとか」

「なーる、確かに」



この会話が佐々木の耳に入らなかったのは偶然の連鎖であったが、少なくとも良い方向に傾いてはいっただろう。

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