「あははは、まさか今日来るなんてね」
「意っ外ー!」
「事態の悪化を防ぐためにな。早いに越したことはないだろう」
高く笑う広瀬さんの友人を丸井や仁王が睨む。蓮二は焦りと冷静さを抱かせながら彼女らを見る。真田は委員会でどうしても行くことができないらしく、終えたら部活に戻るように伝えた。
「愛実にくっつくな、とお前さんらは言いたいんじゃな」
「くっつくな、というよりも馴れ馴れしくしすぎんだよね、あんたらの場合。現にその名前呼びも気にくわない」
「佐々木さんは皆のものなんだから!」
「………」
ますます訳が分からない。彼女らは確かに俺達レギュラーを好いていたはずだ。なぜ佐々木が来てからこうも人格が変わってしまったんだ?佐々木はレギュラーのファンクラブが全て合併するほどの人物でもない。この脚光の浴び方は、あまりにも不自然だ。やはり佐々木の毒牙が徐々に効力を強めているんだろう。
「で、どうするわけ?」
「ほう、逆にお前達はどうしてほしいんだ?俺達がどうすれば、これ以上制裁を加えない?」
「それくらい自分で考えなよねー!参謀でしょ?」
「時間をあげるわ。良案、期待してるから」
彼女らは怪訝な表情を浮かべる俺達ににたりと笑う。この友人の変貌に、広瀬さんは気づいていたから、今まで落ち込んでいたのだろうか。いや、もう落ち込むなんて可愛いものじゃない。あれは鬱だ。友人の変化に気付いたということは、佐々木の毒牙から解放されつつあるということだ。でもどうして俺に言ってくれなかったんだろう。
一週間後には合宿がある、ということで3日の期間が言い渡された。良案、どうすればいいものか。これを機に佐々木をマネージャーから外したいと思うが、赤也は特に嫌がるだろう。なんで佐々木さんが来てからこうもややこしいことに巻き込まれるんだろう。佐々木自体ややこしいのに。
心の中で存分に悪態をついていると、ロビーで蓮二がふと足を止めた。
「あの二人は確かファンクラブの会長と第一幹部だったな」
「そうなりますね」
「俺にいい考えがある。これを使えば成功は80パーセントを上回る」
「!」
もう何年も蓮二と共に戦ってきたしデータによる戦略も行ってきた。だから分かる。この後蓮二が言うであろう言葉を。一番望まない言葉だ。俺はすこし眉間に皺を寄せた。仁王が蓮二に言うように促せば案の定俺が危惧していた内容だった。
「広瀬という女子の協力だ」
それも、利用でなく協力なんていう狡い言葉を使って。