Where is a hero? | ナノ


佐々木視点



羨ましいと思った。一番好きなジャンルである逆ハー夢を見るたびに羨望した。行きたい。私も皆に愛されたい。無償の愛を、受けたい。

そしてここにトリップした。鏡を覗けば整った端正な顔立ちの私。頼んだ通り、レギュラーメンバーだけでなく立海の生徒全員に補正もついていた。勿論、私が興味を持つのはレギュラーのみ。けれどあらゆる女子やファンクラブを敵に回すのもごめんだった。私は皆から愛されたい、けれどそれによって傷つきたくないの。だから広範囲ではあるけれど、生徒全員にしておいた。

すると、驚くほどにうまくいった。天然で不器用な女をアピールすれば、誰からでも信頼を得ることができた。テニス部と深く関わっても文句一つ言われず、むしろ皆私のことを尊敬している。私のこの選択は正しかったんだと思っていた。

そう思っていた。けれど例外が一人いた。幸村精市。私が一番好きな人。彼にだけ補正が効いてないようだった。日に日に私への態度が悪化していく彼に、段々と私の想いは冷めていく気がした。あからさまに冷めてしまったのは、彼にミーハーだろ?と尋ねられた時だ。なんで私が一番欲しがる貴方は、私を愛さないの?どうでもいいクラスメートの女子からは愛されているのに。

もう諦めようかな。振り向かせようとすればどんどん精市は私から離れていく。なんで私が精市に無償の愛を送らねばならないのか心底不思議になってしまった。私は無償の愛を受ける立場であり、送る立場ではないの。それに私、雅治も好きなの。路線変更さえしてしまえば幸村君に未練だってない。邪魔立てすることもなさそうだし。ああ、でもまだ彼が私を嫌いだって決めつけちゃだめよね。一度大きく行動に出してみよう。



「佐々木さん、レギュラーの皆は少し遅れるんだって」

「……そ、そっか」

「柳が事情を話さないなんておかしいな…」

「…………」



放課後、準レギュラーAにそう言われて今日の昼休みの出来事を思い返した。普段なら一緒に屋上で昼食をとって、皆と雑談する。奪いあったり愛を囁いたりしてくれるから、一番好きな時間だったりする。けれど今日は昼食を共にとれないと蓮二から言われた。屋上で、レギュラーだけで話し合うことがあるらしい。しかし私は、屋上へ向かった。私に隠し事なんて考えられるのはただ一つ、コイバナ。きっとレギュラーどうしでこっそり私のいないところで、もっと過激な奪い合いをしてたりするんだろう。私、ヤンデレも大好きよ。そう思っていた。



(実は今朝、丸井の下駄箱にカッターの刃が仕込まれていた)



扉を隔てた向こう側。私は息を潜めて、こっそり彼らの会話の内容を聞きに来ただけだった。しかし話の内容は恋愛事情とはかけ離れた内容だった。私のファンクラブの会長と幹部の役柄につく二人が、ブン太と雅治と蓮二と赤也にカッターを仕込んだらしい。

私は耳を疑った。普通の夢小説なら完全に立場が逆だ。マネージャーになって、嫉妬したテニス部ファンクラブがヒロインに制裁を加えようとする話なら定番なのに。こんなの予想外だ。私のシナリオでは、レギュラー皆に好かれてそれを優しく見守る全校生。だったのに。

けれど、こんな弊害。夢小説ならすぐに解決したじゃない。恐れるに足りないわこれくらい。そう自分に言い聞かせながら準レギュラーAにとびきり笑顔でお礼を言った。

部室に入ると、鏡に写る自分の顔が、少し丸く見えた。

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