5時間目の選択授業の時間。選択授業はというと、芸術の科目である音楽・美術・書道から1教科選択でき、私は勿論美術を選択している。なんたる偶然か、友人はそれぞれ違う科目を選択しているので途中まで一緒に移動することになる。
「丸井だけじゃない、ってどういうこと…?」
「仁王と柳と切原の下駄箱にも仕込んでおいたのよ。たぶんあいつら、近々私の所に来るわ」
「ホント、自業自得って感じー!」
「ま、許すつもりなんてさらさらないけど」
「えー?逆に怒ってそうじゃない?」
「あ、確かに」
信じられない。佐々木が来るまでテニス部レギュラー陣が好きだとあれほど言っていたのに。同性のブスな女子のために、テニス部に挑発するなんて考えられない話だ。
「ま、ちゃあんと丸井に宣戦布告もしといたしねえ!」
「あ、一個だけいい条件思いついた」
「何々?!」
「佐々木さんをテニス部マネージャーから解放」
え?幸村君は佐々木がミーハーだと言ってたし、テニス部のマネージャーになりたくてなったんじゃないのだろうか。そう聞きたくもなったがちょうど別れ道に達したため、友人二人と別れを告げた。白い綺麗な廊下を歩くも、やはり悩みは解消しない。むしろ先程の話によって余計に悩みが重みを増した。ぼーっと考えなしに歩いていると隣に誰かが並んだ。
「広瀬さん」
「……幸村君」
そういえば幸村君も選択科目は美術だったな、と思いつつ隣を歩く。前は少し親しく話しただけでファンクラブから制裁が下されると言われていた。しかし今となってはそれも過去の話。最近に至っては制裁どころか文句一つ言われることはなくなった。
「友人二人から、何か聞いたかい?」
ああ、彼は知っている。私の友人がテニス部レギュラーの人達にカッターを仕込んだこと。幻滅されただろうか。我儘をいうと、幸村君には私も友人も幻滅してほしくない。
「……ごめん」
「広瀬さんは何か悪いことでもしたの?」
「え、いや…」
「なら謝る必要はない。それに広瀬さんは何も悪くないさ」
「……ん」
「ところで彼女達、何か言ってたかい?」
「………特に。でも、悪びれた様子は全くなかった」
「……そう」
顎に手を置いて考える幸村君は様になっていた。そりゃ仲間があんな酷い仕打ちをされれば、解決策を考える。そういえば私は、なぜ彼に幻滅されたくないと思ったんだろう。私はなぜ、自分だけ励まされたというのに安堵してるんだろう。私と彼はつい最近まで、一線おいた他人だったのに。それから数回言葉を交わすと美術室に着いた。