「屋上庭園に花を植えようと思うんだけど…」
「いいねそれ」
というわけで私は今屋上庭園の正面玄関にいます。幸村君と一緒に。幸村君の思わぬ提案にも関わらず私は速答。彼なりに結構悩んだうえで聞いたのかも知れないが、私は頭より先に口が動いていた。昼休みである今、幸村君は部活仲間(友人はまだ真田君と柳君だけらしい)と早めに食べ終えて、わざわざ教室まで迎えに来てくれた。あれ、幸村精市ってこんな紳士キャラだったっけ、なんてつい呆けてしまった。
ちなみに昼食はいつもぼっちで食べている。特別仲のいい友達がおらず、幸村君がいなければ私は基本単独行動だ。そんな私をクラスでは「大人しいやつ」として認識されているらしい。これは幸村くんに関しても同じことが言える。一人でいるときは彼らの行動を傍観し、今の中学生ってこんな感じなんだと安心してしまう。安心というか、心が暖かくなる。それは私が成人としての視点で彼らを観察しているからだろうか。
私の片手には様々な花の種が入った袋。これ、特別に事情を話すと花屋のお姉さんがサービスしてくれたんだよね。またお返ししないと。そう思いながらスコップを持った幸村くんと共に中へと足を踏み入れた。
「土はちゃんと肥えているみたいだね」
「かっさかさだけどね」
「本当に何も植えられてないね」
「美化委員はどうしたんだ」
いちいち幸村くんの一言に辛辣な突っ込みをかましてしまう。花の面倒もまともにみれないならこのような施設をなぜ作ったんだ。そして美化委員担当の先生はどうした。私達が職員室で言ったとき、ありがとうと返すだけなんておかしい。仕事が立て込んでいるから手が離せないだとか、言い訳にしか聞こえない。そこは率先して手伝いに来るべきだろう。
「ふふふっ」
「…って何で笑ってるの?」
「ふふっ、だって波江、皆に優しそうな性格してたから、そんなことも言うんだなって」
「…ごめん、花のことになると熱くなる質なの」
しまった、悪い癖だ。転生前の性格がどんどん反映されてしまってる。いや、仕方のないことだけど。小学生以前の無邪気な笑顔や冒険心は再現するのも面倒になってきている。というかもう無理だろう。
植えようか、幸村君はそう言ってシャベルを袋の中から出したので、私は縦に首を振った。とても楽しみだ。中学在来中かつてない興奮を必死に抑え、宝石のような種を少し整備した土に蒔くのだった。