群集心理 | ナノ




波江の家は駅の比較的最寄りにあるワンルームマンションだった。ワンルームマンションで一人暮らしなんて、大学生から始めるような生活だと思ってたから本当に驚いた。けれど中学1年生で家事も身支度も一人でこなせるなんて、何かおかしい。保護者懇談会の時から薄々勘づいてはいたけど、何か家庭内であったのかもしれない。

フローリングの床をスリッパで歩きながら、ベランダへと出る。木製の筒抜けの棚に配置された植物達は、皆太陽の日を浴びて活き活きと存在していた。コバルトグリーンの葉に、まるで俺たちを見上げたように上向きの花。


「今日宿題も持ってきたんだけど、ここでしていいかな?」


これはいささか急すぎただろうか。もうすぐ終わる宿題をさっさと片付けてしまいたい気持ちがあって、持って来ちゃったわけだけど。迷惑だったかな、と波江の顔色を伺った。


「うん、何か手伝おうか?」

「大丈夫だよ。波江はもう終わったの?」

「うん。じゃあちょうどホットケーキミックスあるしホットケーキ作るね。息抜きにどうかな?」

「本当?嬉しいよ、ありがとう」

「宿題、がんばって」


優しく微笑む波江はすごく柔らかくて自然で、俺が好きな笑顔だった。波江と一緒にこんな日常をこれからも送れたらな、なんて思って笑みを溢した。

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